最高裁
東京電力福島第1原発事故で愛媛県に避難した住民が東電と国に損害賠償を求めた愛媛訴訟で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は16日、国の責任があるかどうかをめぐって弁論を行い、原告と国側双方が意見を述べ結審しました。最高裁において国の責任が問われている同様の4訴訟すべてが結審したことで、最高裁は近く統一的判断を示す見通しです。判決期日は後日示されます。
弁論で国側は、国の地震予測「長期評価」(2002年)を踏まえた試算を前提に規制権限を行使したとしても事故は防げなかったと主張しました。
住民側弁護士は、長期評価に基づいて防潮堤や建屋への浸水を防ぐ水密化などを実施すれば、全電源喪失の事態に至らなかった蓋然(がいぜん)性が高かったと指摘。また、福島原発事故は「東日本崩壊」の一歩手前まで追い詰められた事故であり、事故前の国の原子力政策や事故後の国の避難者支援策が間違っていなかったかも問われていると強調しました。
南相馬市小高区の農家だった渡部寛志さん(43)は、事故によって「暮らしは崩壊」したと語りました。6歳で避難した長女が中学1年生の時、「普通の生活に戻れない。それが生き地獄」と書いた作文を紹介。裁判官らに、事故を引き起こした社会の誤りを見いだせるように「人の痛みを放置させない判断」をと訴えました。
愛媛訴訟は昨年9月、高松高裁が東電と国の責任を認め原告23人に約4600万円の賠償を命じました。東電と国が上告し、最高裁は今年3月、東電の上告を退けました。
一方、国の責任の有無について、同訴訟を含む4訴訟の高裁判決は3件で国の責任を認め、1件は否定。高裁判断は分かれています。
弁論後の会見で、渡部さんは「子どもに対する思いの強い原告被害者が多く、そういった思いを何とか伝えたいと意見陳述した」と語りました。
(「しんぶん赤旗」2022年5月17日より転載)