ことし3月11日は、東京電力福島第1原発事故から11年でした。あのとき原発で何が起きていたのか、に迫る本の出版が続いています。
■「シナリオ」隠ぺい
NHKディレクターの石原大史著『原発事故 最悪のシナリオ』(NHK出版・1700円)は、原発事故の影響が最大限どこまで広がるかを想定する「最悪のシナリオ」が、国民に知らされなかった問題を追及します。最悪のシナリオとは、関東、東北の2地方を含む「東日本の壊滅」でした。第1原発の吉田昌郎所長(故人)が実際に想定。官邸の要求で「最悪のシナリオ」を作成したのは、近藤駿介原子力委員長でした。政府は最悪のシナリオを保有していたのです。
建屋の水蒸気爆発を起こした1号機、3号機の事態に続き、2号機での核溶融と核落下、4号機の使用済み核燃料が冷却保管用の水の喪失によって過熱し溶け出して、放射性物質が東日本全域に拡散することが「最悪のシナリオ」でした。事態はその寸前まで進みましたが、偶然が重なり事態を回避できました。
しかし、米軍は独自に「最悪のシナリオ」を描いていました。事故直後に米原子力空母ロナルド・レーガンが被ばくした事実などから導きだされました。
今も3万数千人にのぼる県内外の避難者がいます。福島では「失ったものを取り戻すことができずに立ちすくんだままの人びとは大勢いる。彼らにとって、『最悪のシナリオ』は、まだ終わった問題では決してない」という「あとがき」の言葉が重く響きます。
■原子力事故起きる
太田昌克著『日米中枢 9人の3・11 核溶融7日間の残像』(かもがわ出版・1800円)は、初動の1週間に絞り、日米の9人にインタビューした共同通信の記事をまとめたものです。
滞在米国人の避難勧告などに関わったグレゴリー・ヤツコ米原子力規制委員会(NRC)委員長は、巨大原発事故について「原子力事故は起こりうる」ことを受け入れるべきであり、日本と米国の原子力当局は事故が起きないと思い込んでいたことが、最大の教訓だと言います。
安井正也経産相大臣官房審議官の証言も重要です。“畑ちがい”の仕事をしていた安井が、大学院で原子核工学を専攻していたばかりに「原子力のプロ」にまつりあげられ、官邸で首相や政治家に第1原発で進行中の事態について意見を求められた、という話は日本の政治の限界を示しており、お寒い限りです。
■15歳の少女の体験
今は北海道在住のわかな著『わかな十五歳 中学生の瞳に映った3・11』(ミツイパブリッシング・1700円)は、福島県伊達市で4人家族が原発事故にあった体験を語ります。「大震災から復興した、原発はコントロールされている、そんな言葉が耳をかすめるたび、心の中がざわざわする」といいます。
(山沢猛)
(「しんぶん赤旗」2022年4月17日より転載)