日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 東日本大震災・原発事故11年 漁で食べていけない…  岩手・三陸沿岸 環境変化 魚激減 燃料高騰 漁業・水産加工業の危機

東日本大震災・原発事故11年 漁で食べていけない…  岩手・三陸沿岸 環境変化 魚激減 燃料高騰 漁業・水産加工業の危機

田老漁港=岩手県宮古市

 東日本大震災から11日で、11年となります。復興へ向けて取り組んできた三陸沿岸の漁業・水産加工業は、自然環境の変化やコロナ禍で危機的な状況に置かれています。(武田祐一)

 「ここ数年で海の様子が変わってしまった」。そう話すのは岩手県宮古市の田老町漁業協同組合の小林昭榮組合長(79)です。「三陸の漁業を支えてきたサケ、サンマ、イカが捕れなくなり、暖かい海の魚が増えています。サバ、イワシはじめ、地元ではあまりなじみのないサワラやシイラという魚も網にかかる」

ワカメ漁の準備が進む田老町漁協の施設

磯焼け

 田老地区の特産はワカメ、コンブ、ウニ、アワビです。ただ海岸は藻場が著しく衰退する磯焼けになっているといいます。

 「以前は天然のワカメ、コンブなどたくさんあったけど、ここ数年激減し、これらの海藻を食べるウニやアワビも減っています。コロナ禍で消費が落ち込み、観光客も減り、厳しい状況が続いている」

 いま不安なのは福島第1原発の汚染水の海洋放出問題です。「原発事故後は風評被害に苦しんだ。また風評被害が起きるのではないか。なんとか他の方法で処理してほしい」と訴えます。

 磯焼けは三陸沿岸に広がっています。同県洋野町種市でウニやアワビ漁をする岩手漁民組合長の藏德平さん(86)は「磯焼けは深刻で、ワカメ、コンブがなくなり、ウニなどが食べない海藻が増えている。数年前からウニの餌になるコンブを養殖しています」。以前はアワビを漁師一人が1シーズンに100キロほど捕れていましたが、今は平均70キロ程度で、身もやせているといいます。

 「漁で食べていけず、若い人が浜から離れ、ほかの仕事につく状況です。餌を冷蔵庫で保存して計画的な養殖で食べていける漁業にしなければ後がない」

 いまロシアのウクライナ侵略に伴い、原油価格がいっそう高騰する事態になっています。「漁船の燃料代が高くなると、漁業の経営がさらに厳しくなる」と藏さんは指摘します。

 不漁で水産加工業も打撃を受けています。「震災と不漁に、台風でも被災し、コロナ禍で四重苦だ」というのは宮古市の水産加工業者(63)です。

 「震災で1・3メートルくらいまで浸水し、工場の機械がダメになりました。グループ補助で再建して、その後、サケを3枚におろす機械を買ったものの、不漁で1回も使っていません」

 2016年の台風10号でも工場が浸水し、機械の修理代がかさみました。

 「コロナ禍の2年間で、イベントでの販売や共同購入がストップし、売り上げは落ち込んでいます。原油高で、資材の値上げラッシュになるとますます大変だ」と顔を曇らせます。

苦しい

 同県釜石市の菊鶴商店の菊池真智子さん(60)は主力商品のサンマ、サケが入手困難で経営は苦しいといいます。

 「震災で被災した工場を再建したと思ったら、復興計画のために移転をさせられた。新たな工場を造り、さあ、これからというときに魚が捕れなくなり、さらにコロナ禍で観光のお客さんが来なくなって…悪循環が続いています。国は、コロナで経営危機に陥っている水産加工業者にも支援の手をさしのべてほしい」

原発汚染水放出に反対

岩手県漁連会長・宮古漁協組合長 大井誠治さん

 岩手県漁連会長で、宮古漁協組合長の大井誠治さん(86)は「震災後、一番困っているのは、この2、3年で急激にサケなど魚が捕れなくなったことだ」と語ります。

 同漁協では毎年、サケの稚魚を放流しています。「昨年は6500万尾放流したが、ほとんど戻ってこない。温暖化の影響かもしれないが原因はよくわからない。今年は海水温が低いので戻ってきてくれれば」と語ります。

 岩手県宮古市は漁協に委託してトラウトサーモンの養殖に取り組んでいます。大井さんは「市場の閑散期を補う魚種として3年前から取り組み始めたが、その直後にサケの収穫が激減した。まだ数が少なく、サケに代わるものではないが“育てる漁業”ということで今後につなげていきたい」と話します。

 福島第1原発の汚染水放出について、大井さんは「風評被害を心配して全漁連が海洋放出に反対している。県漁連としても反対だ」と述べました。

(「しんぶん赤旗」2022年3月11日より転載)