福島第1原発事故のALPS処理水(汚染水)の「安全」を強調したチラシを、国が岩手県久慈市の小中学校へ直接送付した(1月29日付既報)ことが明らかになって3週間。県内の市町村では、児童・生徒へのチラシ配布を中止する動きが急速に広がっています。(岩手県・三国大助)
経済産業省と復興庁は、小学校向けと中学校・高校向けのチラシを2種類作成。今年に入ってから「放射線副読本」とセットで各学校へ送り付けました。
無責任な記述
中学校・高校向けのチラシには「放射性物質のトリチウムの健康への影響は心配ない」との文章や、人間が飲んでも大丈夫だと思わせるようなイラストを掲載。「大幅に薄めてから海に流す」「世界でも既に海に流している」と無責任に書いています。
小学校向け(ほとんどの漢字に読み仮名を振っている)には、処理水で環境や生物が汚染されるといった「風評被害」が出ないように、「国は安全性を伝える努力をしていく」と記述。放射性物質についての理解が「福島の復興につながる」と説明し、児童を「復興のためなら、海に流すのは仕方ない」と誘導する中身になっています。
県内では昨年、沿岸部を中心に9市町村議会が、ALPS処理水の海洋放出決定の撤回を求める国への意見書を可決しました。
津波被災地の沿岸部は、福島原発事故の風評被害だけでなく、主要魚種の大不漁とコロナ感染拡大で苦しめられています。生業(なりわい)再生へ力を尽くしてきた漁民などにとって、今回のチラシ配布は驚くべきことでした。
国が市町村の教育委員会を飛び越えて各学校へ送った乱暴なやり方も、関係者に不信感を抱かせました。
県内の日本共産党の地方議員らは、33市町村のうち21市町村で配布中止の緊急申し入れを実施(22日現在)。それに応えて、多くの市町村が首長や教育委員会の判断で配布に待ったをかけました。共産党県議団も7日、佐藤博県教育長に対してチラシ送付の経緯を調べ、県立高校での配布をやめるように申し入れました。
首長の動きでは、県市長会が2日の会議でチラシを問題視。沿岸13市町村で構成する「岩手三陸連携会議」も8日、重要議題に取り上げました。陸前高田市の戸羽太市長は、共産党の志位和夫委員長とのオンライン会談(18日)の中で、「三陸連携会議は配布のストップで一致した」と紹介しました。
メディアも注目し始め、東北のブロック紙「河北新報」は20日付の1、3面を使い、「被災3県回収の動きも」と大きく報道しました。
放出中止迫る
現場での対応を踏まえて、いわぶち友参院議員(比例候補)は4日、文部科学省、経済産業省、復興庁からチラシ送付の聞き取りをし、抗議。いわぶち氏は「岩手のみなさんが配布中止の声を上げ、福島、宮城、茨城でも党が申し入れを行ってきた。国会でチラシの早期回収と、来春に狙われている汚染水海洋放出の中止を迫っていく」と話しています。
(「しんぶん赤旗」2022年2月24日より転載)