東京電力福島第1原発事故をめぐる東電や国を被告にした損害賠償訴訟は全国で約30あり、原告は約1万3000人に上っています。訴訟のいくつかは最高裁のたたかいになっています。裁判で東電は「これまでの賠償は払い過ぎ」などと主張しており、被害者の弁護団がこれを問題視しています。
「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟」(生業訴訟)は昨年9月、仙台高裁で国の責任を認め、区域ごとの一律賠償を命じる判決が出て、現在は最高裁に係属しています。
生業訴訟弁護団の馬奈木厳太郎事務局長はこう指摘します。
中間指針基づき
「法廷の外ではあまり知られていませんが、東電は、実際の損害よりも『中間指針』に基づいて支払った賠償額の方が高い、払い過ぎているという主張をしています」
中間指針とは、早期の被害者救済を図るため原子力損害賠償紛争審査会(原陪審)が2011年8月に出した、賠償範囲などの目安を定めたものです。その後、4回「追補」されています。
馬奈木さんは「東電は中間指針を超える損害はないと裁判で争って来ました。しかし、一連の判決で東電の主張が認められず、控訴審での審理終結が迫った一昨年末から、払い過ぎだと主張するようになった」といいます。
東電が最高裁に出した上告受理申立書には、中間指針について「裁判で認定される額よりも高額な範囲(少なくともそれを下回ることのない範囲)の賠償額を判定の指針として示す」とあります。
しかし、指針を策定した原賠審は「指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要」と明記。東電などに損害賠償を求める訴訟の判決でも、中間指針を超える賠償が認定され、生業訴訟では、中間指針が賠償の対象にしていない会津地域などの住民にも賠償を認めています。
自主避難者には
東電が主張しだしたのは、これだけではありません。
避難指示対象区域外である自主避難等対象区域の慰謝料額を示した中間指針(追補)に関わるものがあります。
「想像すらしなかったのですが、東電は自主避難等対象区域に法律上の損害はなく、中間指針が示した賠償額は、政策的配慮から認められているにすぎないという立場を明らかにしているのです。自主避難は被害者ではないといわんばかりです。払い過ぎの主張とともに、被害者全体にかかわる問題をはらんでいます」と馬奈木さん。
東電は損害賠償の方針として、「最後の一人まで賠償貫徹」「迅速かつきめ細やかな賠償の徹底」「和解仲介案の尊重」という「三つの誓い」を掲げています。
馬奈木さんは東電の姿勢を批判します。
「法廷での東電の主張が本音ではないのか。事故の当事者としての反省もなく、被害者に対する向き合い方もきわめて問題があり、原子力事業者として適格性があるのか」
(「しんぶん赤旗」2021年12月25日より転載)