東京電力福島第1原子力発電所事故の被災地・福島県浪江町で300年の伝統を誇る「大堀相馬焼の郷」。窯元が、かつての工房と店舗で「原発事故で時間が止まり、荒れ果てた悲惨な被害を伝えたい」と見学会を開いています。(山本眞直)
見学を呼びかけているのは大堀相馬焼の郷「陶魂会」会長で「春山窯」13代目の小野田利治さん(59)=大堀相馬焼協同組合理事長=。見学は10月から予約制で始まり、愛好家や市民グループなどが来店しています。
見学者からは「市街地は“復興”しているが、ここではあの時の時間が止まったままで強い衝撃を受けた」「傷だらけの陶器が埋め尽くす店内に立つと、心がざわざわする」などの言葉が寄せられていると言います。
大堀相馬焼は江戸時代に浪江町の大堀、小野田、井手地区で生まれ、最盛期には100を超える窯元でにぎわいました。原発事故前までは23の窯元が「二重焼」「青ひび」「駒の絵」という独特の技法で伝統を継承。しかし原発事故の放射能汚染で、窯元が並ぶ大堀地区が人の住めない帰還困難区域に。窯元の多くが着の身
着のままで避難し、避難先で11軒が再開にこぎつけたのは最近のことです。
春山窯は大堀地区に隣接する小野田地区にあります。わずか数百メートルの差で帰還困難区域から外れ、「郷」でただ一軒の立ち入りが可能な窯元です。
小野田さんは国が1978年に伝統的工芸品に指定した二重焼の湯飲みを手にこう語ります。「店内は棚が崩れて散乱した陶器や、かつてにぎわった大堀の郷を描いた子どもの絵も飾ったままだ。朽ち果てた工房や店舗を見るのはつらいが、多くの人に原発事故の被害をみてもらい、いつか郷ににぎわいをとりもどしたい」
(「しんぶん赤旗」2021年12月6日より転載)