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シリーズ検証 安倍・菅政権の9年・・原発汚染水 データ隠し約束ほご

 政府と東京電力は、福島第1原発事故の汚染水問題をめぐって、データ隠しや後手の対応など、無責任で不誠実な対応を続けてきました。今年4月、菅義偉首相は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」という漁業者との約束を覆し、地元をはじめ国民の心配の声を踏みにじって、高濃度のトリチウム(3重水素)を含む汚染水(アルプス処理水)を薄めて海洋放出する方針を決定。この問題でも安倍・菅政権は露骨な強権政治を進めてきました。(「原発」取材班)

 「なんとも割り切れないものがある…」。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は5月に開かれた政府の会合で、約束をほごにしたことを認めようとさえしない政府の態度に苦言を呈しました。

 「関係者の理解」ぬきの方針決定について江島潔経済産業副大臣が「政府の考えは(約束した)当時と変わっていない。放出が始まるまで2年ある。多くのみなさまに理解を深めていただくよう取り組む」と強弁したからです。野崎会長は「基本方針そのものへの信頼性が疑われる」と批判しました。

 約束は2015年8月、原子炉建屋周辺でくみ上げた地下水を浄化して海に流す「サブドレン計画」を漁業者たちが受け入れた際のものです。

苦渋の決断

 事故発生以来、相次ぐタンクの汚染水漏れや汚染水の海洋流出などに漁業復興を妨げられてきた漁業者たち。データ隠しや後手の対策で政府・東電に不信が募るなか、汚染水対策の前進のために“苦渋の決断”として計画を受け入れたのです。

 同時に県漁連は、浄化処理をするとはいえ元は高濃度汚染水だったアルプス処理水についてはタンクで厳重保管し、「漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない」よう要望。これに政府と東電が回答した、特別に誠実な履行が求められる約束です。

 そうしたなか、18年には、浄化処理を終えた汚染水の8割にトリチウム以外の放射性物質が基準を超えて残存していることが発覚。これを事実上隠してきたことに、漁業者や地元だけでなく世界の不信が高まりました。

 安倍・菅政権は、タンク増設による陸上保管の継続、処理水のモルタル固化といった代替案の検討を求める国民の声にも背を向けてきました。

 専門家の懸念や指摘にも向き合わず、菅政権は発足直後の昨年10月に海洋放出方針を固めました。ただ、このときは国民的な反対の前にいったん断念しました。しかし今年4月、事故後10年の苦難の末、ようやく福島の漁業が試験操業から本格操業に移行しようというときに、漁業者が「絶対反対」を表明するなか決定を強行しました。

信用できぬ

 「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の原告団長を務め、福島県相馬市でスーパーを営む中島孝さん(65)は、複雑な気持ちで魚を売ってきました。今回の方針決定について「地元の意見をいっさい聞かず、代替案も考慮しない態度は強権的で、不信感をあおるばかりだ」と話します。

 当事者の声を聞かずに政府が一方的に決めた帰還方針、業者への原発事故の補償の問題でも「命を軽く見る態度がはっきり表れた」と中島さんは感じています。「この10年、被害に向き合わない安倍・菅政権の冷酷な面をみてきた。賠償するといっても到底信用できない」。隠ぺい・ねつ造・改ざん体質が「日本社会が前に進めない根本原因だ」と指摘し、「国民の側も厳しくチェックする努力が必要だ」と強調します。

(「しんぶん赤旗」2021年9月29日より転載)