“英知集めて解決を”
福島県相馬市の松川浦(県立自然公園)で産出される名産品の青ノリ(アオサ)。東日本大震災による打撃から、復興への展望が見え始めたところに、東京電力福島第1原発の汚染水(処理水)海洋放出決定が…。「国や東電は勝手に決めるな。英知を集めて解決を」と訴えるノリ漁業者の姿を追いました。(福島県・野崎勇雄)
久しぶりの好天で水面(みなも)がキラキラ輝く松川浦。ノリ漁41年の遠藤友幸さん(61)の漁船に同乗して松川浦漁港を出港すると、間もなく浅瀬に到着しました。網にノリを着かせるための種場で、ある程度伸びると網を水の流れがいいノリ棚に移動。ノリ漁は9月に始まり、12月に摘み取りを始めて翌年4月いっぱいまで続きます。
県の青ノリ生産は松川浦だけですが、三重県に次ぐ全国2位を誇っていました。しかし2011年3月11日、震災時の大津波で松川浦の砂洲が決壊して海底がえぐられ、松林もノリ棚や網も根こそぎ奥地へと流されました。
「当初は虚脱状態でした。ノリ漁民は半農半漁が多く、漁業が重要な収入源。次につなげていかなければならないと、原発事故がある程度落ち着いた段階で、松川浦のガレキ撤去作業を始めた。まさに一からの出発でした」
■力合わせ再開
困難ななか力を合わせて復興を進めるため、グループで取り組む流れができてきました。14年9月、どのくらいノリが伸びるか実験するため種網を張ったところ、「ノリの着きぐあいが良く、なんとか伸びた」と安どの声が広がりました。17年から食用のノリ採取ができるようになり、18年2月には出荷が再開されました。
遠藤家では一昨年10月、建築業の設計の仕事をしていた息子が「家業を継ぐ」と決意して帰郷。水田3ヘクタールとノリ漁を本格的に始めた矢先の、菅政権の汚染水海洋放出決定でした。
「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないという約束を反故(ほご)にしたひどいやり方だ」と憤る遠藤さん。「福島県民が苦しむだけではない。全国が悩む。汚染水を流すことで国民に押しつけるキズを国、東電はどう考えるのか、生活できるのか」と訴えます。
遠藤さんは機会あるごとに各地で漁民の思いを代弁して、「汚染水問題は国、東電まかせでなく、いろんな人たちの知恵を集めて進めるべきだ」と訴えています。11日には、ふくしま復興共同センターなどが共催するオンライン学習会の報告者の1人として訴えます。
■産出なお3割
魚場では網の数も増やし始めました。それでも産出量は以前の2~3割。すでに第一人者の遠藤さんは九州や三重県など産地を見て回るなど、品質向上の努力も続けています。
「後継者たちが食べていける農・漁業の形をつくってやりたい。そのために今のノリ漁のやり方も改め、震災前以上の経営にしたい。せっかく若者がやる気を起こして戻ってきたわけだから」と話します。
(「しんぶん赤旗」2021年9月9日より転載)