原発固執は問題山積
このほど公表された国の次期エネルギー基本計画の素案は原発について、新増設などの表現は見送られた一方で、2030年度の発電量に占める比率の見通しを「20~22%」に据え置きました。19年の原発の比率は約6%で、素案の見通しは大幅な原発比率の増大を意味しますが、原発の運転状況からも困難です。
新規制基準施行後、電力会社が原子力規制委員会に審査を申請した原発は新設2基を含む27基です。規制委はこれまでに27基のうち16基の設置変更を許可。再稼働に至ったのは6原発10基です。
経産省の試算によると、30年度に原子力を「20~22%」にするためには、27基すべてが再稼働し、設備利用率が70%を達成しても足りず、80%程度が必要です。しかもこのうち12基は、30年には現行の法律で運転期間の原則である40年を超過します。
「80%」の現実味
20年度の実際の原発の設備利用率をみると、川内原発(鹿児島県)のテロ対策設備の完成が遅れた九州電力は62・4%。伊方原発(愛媛県)3号機運転差し止めの仮処分決定やテロ対策設備の完成遅れから、四国電力はゼロ%。7基の原発で許可を受けた関西電力は28・0%でした。「80%」に現実味があるのでしょうか。
昨年11月から今年の初めにかけて関電の稼働原発はゼロになりました。再稼働していた大飯原発(福井県)3号機や高浜原発(同県)3、4号機の定期検査で安全上重要な機器などで傷やひびが見つかったからです。原因究明や水平展開などで、関電は予定外の停止を余儀なくされたのです。
今年6月に関電は、美浜原発(福井県)3号機の原子炉を起動させました。運転開始から40年を超える老朽原発の日本で初めての再稼働でしたが、新規制基準で設置が義務付けられたテロ対策施設の完成が期限までに間に合わないことから、10月には再び停止。運転再開の予定は来年10月です。
同じく老朽原発の高浜1、2号機は、テロ対策施設の完成の遅れで再稼働に至りませんでした。再稼働の予定は23年としています。
運転差し止めも
東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型原発では3原発4基の設置変更が許可されましたが、再稼働に至っていません。
東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)6、7号機は、核セキュリティーにかかわる重大な問題が発覚し、再稼働時期は見通せない状況です。
日本原子力発電が22年12月の完了をめどに再稼働に向けた工事を進めている東海第2原発(茨城県)。今年3月、水戸地裁が周辺住民の防災対策が不十分として運転の差し止めを命じる判決を出し、原電が控訴しています。
東北電力女川原発(宮城県)2号機は、再稼働に向けた工事を22年度に完了する計画です。周辺住民は今年5月、避難計画が実効性に欠けるとして、同原発の運転差し止めを求め仙台地裁に提訴しています。
審査中の原発は11基。中国電力島根原発(島根県)2号機について、規制委の審査書案が6月に示されました。
また、敦賀原発(福井県)2号機は、原電が審査会合に提出した地質データを無断で書き換えていたことが発覚し、原因調査が終了するまで規制委が審査の中断を決定しました。
次期エネルギー基本計画の素案では、設備利用率を向上させる定期検査の期間の短縮や間隔の長期化に向けた取り組みを進めるとしています。また、長期運転に向けた課題に対して「官民それぞれ」が検討するとしています。原発業界や自民党からは、長期運転のための法律の改悪を求める意見も出ています。
原発の老朽化により今後、いっそう想定外の不具合やトラブルが懸念されます。そういった実態を無視して設備利用率を上げれば、安全性のさらなる低減につながります。
(松沼環)
(「しんぶん赤旗」2021年8月19日より転載)