当事者ら9割「学校検診さらに」
「集団検診で救われた」と、記者会見で語る福島市の大学生。東京電力福島第1原発事故後、福島県が行っている県民健康調査で甲状腺がんが見つかり、手術を受けました。甲状腺がんの手術を受けた当事者とその保護者の9割が、検査の継続を訴えています。(都光子)
NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」は、5月末、福島県の県民健康調査課とオンラインで面会し、甲状腺検査の患者への支援の拡充を要望しました。
手術につながる
同席したのは、甲状腺がんの手術を受けた大学生の林竜平さん(21)。終了後の記者会見に実名で「県民健康調査でがんを見つけてもらい、救われた。手術につなげていただいて、とても感謝しています」と話しました。
林さんは事故当時、福島市の小学校4年生でした。学校での甲状腺検査で、がんが見つかりました。そして17歳で手術。「声帯に近いから、大きくなると声が出せなくなる可能性がある」と説明を受け、手術を受けることを決めたといいます。
「今は薬を飲まなくてもよく、普通の生活を送ることができている。手術が遅れていれば、声が出なくなっていたかもしれない」と林さん。不必要な手術をしたかのように言われる検査縮小論にたいし、「ふざけるな、と言いたい」と県民健康調査の意義を訴えました。
当事者に支援を
同基金の事務局長、吉田由布子さんは「林さん含め事故当時は子どもだった人が、10年たち、若い年齢でのがん患者として、進路や就職、結婚や妊娠・出産などで悩んでいる。当事者への支援が大事」だと話します。
福島県が実施している甲状腺がんの検査は、いま5巡め。7月に開かれた専門家による検討委員会で公表された4巡めの結果、甲状腺がんの疑いがあると診断された子どもは33人で、甲状腺の摘出手術を受けた子どもは27人となったことを公表しました。これまでに甲状腺がん、ないし疑いがあると診断された患者は260人に達し、このうち219人が手術を受けたことになります。
吉田さんはさらに「県の検査には制度的欠陥があり、検討委員会は甲状腺がん全数を把握しきれていない。そのことを認識しているにもかかわらず、改善されていない。当事者の声も反映されていない」と指摘します。
定期検査が有効
同基金は、療養費を給付した患者らのデータをもとに、福島県内と県外(1都14県)を比較。自覚症状などによってがんを発見する患者の多い県外では、がんが進行した状態で発見されるケースが多く、全摘例が5割を超えています。
一方、検査のある県内では全摘例が1割ほど。肺などの遠隔転移も7分の1~8分の1程度と少なく、定期的な検査が患者のQOL(生活の質)向上に役立っていると訴えました。
同基金は原発事故から10年たった今年初め、甲状腺がんの手術を受けた当事者、その家族を対象にアンケートを実施しました。
そのうち、学校での甲状腺検査について9割が継続を求めています。「原発事故当時小さかった子どもが大きくなる過程で進行してしまう心配がある」という意見が寄せられています。
また「手術後体調を崩すことが増えた」「再発しないか不安」「全摘すると薬をずっと飲まなくてはいけない」など、医療面、心理面、経済面での支援が必要であることが浮き彫りになっています。
*3・11甲状腺がん子ども基金…東京電力福島第1原発事故以降に甲状腺がんと診断された、1都15県の事故当時18歳以下の人に療養費を給付。相談活動や情報発信もしています。すべて寄付でまかなっています。
(「しんぶん赤旗」2021年7月31日より転載)