一般廃棄物で処分 汚染土壌を再利用
基準緩和に不安の声
東京電力福島第1原発事故から10年。「事故後の放射能汚染の処理はどうなっているのか」「処理基準が次々緩められ不安だ」などの声が出されています。こうした問題にこたえ、ともに考えるオンライン企画が、5月24日に開かれました。(徳永慎二)
このオンライン企画は、「脱原発社会」に向けて政策提言などをすすめる原子力市民委員会(CCNE)の主催。「原発ゼロ社会への道」をテーマに、現在まで8回開かれています。
第6回は「事故後の放射能汚染にきちんと対処できたのか?」。冒頭、信州大学人文学部准教授の茅野(ちの)恒秀さんが「個人的な話」として「原発事故由来の放射性物質の問題にかかわるきっかけ」を話しました。
茅野さんは青森県六ケ所村を中心に20年近く、「核のゴミ」と地域社会について研究してきた社会学者です。2015年、中央アルプスの麓、天竜川沿いの長野県宮田村に突然、民間の産業廃棄物最終処分場建設計画が浮上。住民の相談を受けたのがきっかけでした。
事業者の説明は「国の定める埋め立て基準以下の放射性物質含有の焼却灰・飛灰・汚泥を含む、一般廃棄物を最終処分する」というものでした。住民からはさまざまな疑問が出されました。「放射性物質含有ってなんだ?」「処理基準の8000ベクレル/キログラムって?」…。住民と調べをすすめるなかで「事故後の政策的対処に問題があったことを実感した」といいます。
宮田村は人口約9000人ですが、住民は全国から約11万人もの反対署名を集め、いまも反対運動を続けています。
二重基準の混乱
原発事故が起きる前には、放射性物質が100ベクレル/キログラム以上であれば、コンクリートなどで遮蔽(しゃへい)してドラム缶で厳重保管していました。現在もこの基準は生きています。
ところが、事故後、放射性物質汚染対処特別措置法が制定(11年)され、国による新基準の導入や新たな線引きがすすめられました。ぼう大な放射性廃棄物や除去土壌を、焼却や埋め立てによって減らそうと、8000ベクレル/キログラム以下なら通常廃棄物として処理できるようにしたり、除去土壌を公共事業などに再利用できるようにしました。
この二重の基準は今も続いており、混乱をもたらしています。
管理原則は隔離
オンライン企画で茅野さんは、東電福島第1原発事故に由来する放射性物質への国の対処の経過と問題点について、多岐にわたって解説しました。
質疑応答では、宮城県北部で一般ごみと混じった、8000ベクレルを超える最高1万3000ベクレルの放射性廃棄物が見つかったことが報告されました。また「汚染された焼却灰が園芸資材に再利用されるのでは」と参加者から不安も出されました。
茅野さんは「放射性物質の管理原則は、『生活環境からの隔離』です。この原則を無視して法的根拠のないことをすすめようとするから、さまざまな問題が起きてきます。市民の参加がない、仮にあっても、異論は排除する形になっています」と混乱の背景について話しました。
食品基準緩和案 撤回求め署名
政府自民党は、食品(山菜、キノコ、ジビエ)に含まれる放射性物質の基準を緩和しようとしています。東電福島第1原発事故による放射能汚染の実態を、土壌や食品の測定データによって可視化する活動を続ける「みんなのデータサイト」は、緩和案の撤回を求める署名を3月からよびかけています。
現在の規制値は1キログラム当たり100ベクレル。これを10~100倍に緩めることを検討しています。6日付同データサイトの「署名の経過ご報告」では「政府自民党は深刻な放射能汚染を国民の目から覆い隠そうとしている」と批判。緩和は「生産者の放射能低減への血のにじむような努力を無視するもの」だとのべています。
「みんなのデータサイト」には、全国約30の市民放射能測定所が参加しています。「サイト」のメールアドレスはminnanods@gmail.com
(「しんぶん赤旗」2021年6月28日より転載)