政府が13日に決定した東京電力福島第1原発の汚染水海洋放出方針に対し、漁業関係者から強い反対の声が起こっています。青森県八戸漁業指導協会の熊谷拓治会長理事(83)に聞きました。(青森県・藤原朱)
「海は広いな大きな」と子どもの頃に歌いました。海は無限だと思っていたのです。ところが、今、その限界が見えてきました。
八戸港の水揚げは1998年には80万トンを記録し、日本一でした。しかし、昨年は最盛時の1割にも満たないわずか6万トン。
日本全体でも、ピーク時には1200万トンあった水揚げが300万トンと落ち込んでいます。漁業はなぜこんなに苦しい状態に追い込まれてしまったのか。
原因の一つは、温暖化に始まる異常気象です。
八戸の大型イカ釣り船団はかつて、アルゼンチン沖で大漁を続けていました。ところが、南極の氷が解けるとともに、プランクトンもイカも消えていったのです。
次に資源管理の不備。さらに外国漁船の無法な乱獲が追い打ちをかけたのです。プラスチックごみに代表される海洋汚染。そして、海洋酸性化が海洋生物を追い詰めています。悲鳴を上げているのは人間や魚だけではありません。海も悲鳴を上げているのです。
そこに汚染水の海洋放出の計画が国から提案されました。
私は一瞬、東日本大震災の“惨劇”を思い出しました。そして原発事故です。放射能汚染で福島や周辺地域の漁民がどれほど苦しんだことか。
幸いにして、八戸地域の前沖は汚染はなく、タラなどの回遊魚も徹底的に放射能汚染をモニターし、汚染された魚は焼却廃棄し、1件の事故もありませんでした。今でもモニターを続けています。美しい海を守っています。
汚染水の海洋放出は2年後と言います。私は、汚染水海洋放出に断固反対です。美しい海と漁業者を守るために、海洋放出以外のあらゆる手段を考えてほしいのです。
先日、八戸水産高校の入学式で、私は新入生に言いました。
「海を選んでくれてありがとう。海を守ることは人類を守ることになります」
(「しんぶん赤旗」2021年4月24日より転載)