政府は13日、東京電力福島第1原発で増え続けるトリチウムを含む汚染水の海洋放出の方針を決めました。これに対し福島県だけではなく近県の宮城や岩手などの漁業関係者や消費者の間でも反対、撤回を求める声が急速に広がっています。(高橋拓丸、岩手県・三国大助)
党が漁協・生協と懇談 怒りと不安口々
復興途上でコロナ禍に苦しむ被災地を一顧だにしない政府の方針を、漁業者や消費者はどう受け止めているのか。宮城県の日本共産党県議団と、ふなやま由美衆院東北比例候補が16日、石巻市にある県漁業協同組合と、仙台市の宮城県生活協同組合連合会を訪れました。
価格下落の中で
宮城県は全国屈指の水産県です。特にノリやカキ、ホヤ、ギンザケなど海での養殖業が盛んで海洋放出の影響を受けやすく、懇談では怒りと不安が口々に語られました。
「残念かつ憤りを覚えます」と語るのは、県漁協の寺沢春彦組合長。コロナ禍で海産物に3~4割の価格下落が起きている中での決定に「なぜこのタイミングなのか。震災から10年、漁業者は死に物狂いで頑張ってきた。放出ありきで話が進んでおり、これでは今後も生産を続けてくれと次の世代に言えない」と訴えます。
約108万人の組合員を擁する宮城県生協連。野崎和夫専務理事は、県産品への消費者の購買動向に大きな影響が出ると指摘。「宮城ではギンザケのブランド化が成功しつつあるなど、復興に向けて一つひとつ積み上げてきました。政府が具体的に風評被害について検討と対策をしているのか、疑問です」と話します。
野崎氏は、政府と東電が6年前に、地元の同意を得なければ進めないと約束していたことも指摘しました。
輸出にも悪影響
話題は海外の消費動向への不安におよびました。
県漁協の寺沢組合長は、中国、韓国など周辺諸外国が海洋放出を非難していると強調。「原発事故により、ホヤは今も韓国への輸出ができず宮城の養殖業者は大打撃を受け続けている。日本政府が安心だ大丈夫だと言っても、国際社会には一切通じなかった」と話します。
生協連の加藤房子常務理事は、県の「みやぎ食の安全安心推進会議」で委員も務めています。「放射性物質について学習会などを開き、宮城の食材は安全だと10年訴えてきても、広がりきりません。日本の輸出海産物が海外から拒絶される危険があり、壊滅的な被害になりかねません」と語りました。
知事は明言せず
村井嘉浩宮城県知事はこれまで、海洋放出について自身の考えの明言を避けています。13日には、経済産業省に対して風評被害への万全な対策を求めるなど、海洋放出を前提とした対応です。
共産党県議団は9日に村井知事に対し、「復興途上にある県の漁業や水産加工業、観光業などへの打撃は大きく、地域経済のますますの低迷につながりかねない」として、海洋放出への明確な反対表明を求める要望をしました。
12日には、生活協同組合あいコープみやぎや「女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション」など県内22の市民団体も、知事の反対表明を求めて要請しています。
寺沢組合長は懇談で、「漁業者だけで声をあげてどうなる問題ではありません。立場の垣根を越えてオール宮城で対応しないと国には届かない」と支援を求めました。
ふなやま候補は「豊かな海を支えてきた産業を守ることは、党派を超えた大事な仕事です。一緒に取り組んでいきます」と応じました。
三浦一敏県議団長は、「放出が始まるまでの2年間、共同のたたかいがどれだけ広がるかにかかっています。一致して反対している姿を政府に見せて声をあげていく運動を起こしていきます」と約束しました。
(「しんぶん赤旗」2021年4月19日より転載)