「潮目の海」と呼ばれます。親潮の寒流と黒潮の暖流がぶつかりあう福島県沖。そこは、さまざまな魚種がとれる絶好の漁場として知られてきました▼豊かな海の幸を代々にわたって食卓にもたらしてくれた漁師たち。彼らはいま、死活にかかわる問題に直面しています。原発事故でタンクにためている放射能汚染水を“宝の海”に流すことを決めた政府によって▼「漁業者の理解なしには絶対流さないと確約していたのに、それを破棄するのは一国の総理がやるべきことではない」。長く漁師を続けてきた男性は憤りをあらわにしました。10年たって、やっと、これから本格的な操業に移り、震災前の状態に戻していこうと気持ちを固めた矢先でした▼この10年間、福島の漁業関係者は風評をぬぐうために努力を重ねてきました。試験操業と検査を何度もくり返し、安心・安全をアピール。水俣病の語り部に学んだり、各地の販売イベントに出かけたりもしました▼約束破りの一方的な決め方は福島だけでなく、国内外で抗議と批判をひろげています。いくら「薄めて流す」といわれても、政府や東電のいう安全性や対策は信用できない。これまでの不実な態度がそうさせているのでしょう▼沖縄でもそうですが、首相の「寄り添う」という言葉がいかに裏腹か。住民の切なる声を軽んじる感覚だから、汚染水に含まれる放射性物質のトリチウムを復興庁がゆるキャラにしてしまう。潮目には情勢が変わる境目の意味も。まさにそのときの政治です。
(「しんぶん赤旗」2021年4月15日より転載)