漁業立て直す矢先
今月、福島の漁業は「試験操業」から「本格操業」に一歩を踏み出したばかりです。
漁師は昨年から、水揚げ量を5年間で震災前の6割まで回復させるなど、地区・漁の方法ごとに目標を立て、意欲を持って増産を開始しています。他県産の魚で持ちこたえてきた地元の仲買人も、福島産の魚が増えるなかで立て直そうとしています。
関係者が協力し、次の一歩を踏み出す具体的な道筋を明確につかみつつある状況です。そこまでたどりつけた前提は、汚染水の問題はもう終わりだという政府・東電との約束でした。それをほごにする海洋放出決定に地元は困惑しています。
政府は、漁業が被害を受けるので風評対策と補償をすればいいと考えています。しかし市場関係者や消費者と一緒に積み上げてきた復興の前提が崩壊して、振り出しに戻ってしまうのに、どう補償するのでしょうか。どう耐えろというのでしょうか。
廃炉の大変さは漁業者も分かっています。政府や東電がきちんとした組織ならずいぶん違ったでしょう。この10年間、東電からは「出直す」「改革する」と幾度も聞かされてきました。処理水をめぐる方針を見ても、いつそれが本当になるのか全く見えません。
廃炉は国民的議論で進めていくべき問題です。しかしそれがなされてこず、「困ったものは福島で」という発想の固定化をもたらしつつあり、福島に重くのし掛かってきています。国民も、自分のこととして向き合うかどうか、問われています。このあり方を廃炉まで続けるのでなく、いま止めることが必要です。
(「しんぶん赤旗」2021年4月13日より転載)