国の責任認定も被害の実相見ぬ賠償額
東京電力福島第1原発事故で、国と東電に損害賠償と原状回復などを求めた「いわき市民訴訟」。福島県いわき市で臨時総会を開いた原告団(原告数約1500人、伊東達也団長)は、福島地裁いわき支部(名島亨卓裁判長)の一審判決を不服として仙台高裁へ控訴しました。原告に高裁でのたたかいについて意気込みを話してもらいました。(菅野尚夫)
「国に責任」に感動
伊東団長は一審判決について、「私たちの第一の主張であった国の責任を認めさせたことは、評価できる」と言います。
島田栄二郎事務局員は3月26日の判決時、裁判所の前で結果を待っていました。「国に責任があることを認めた」と旗出しがあり、「びっくりするとともに感動しました」と振り返ります。同地裁支部の直近の原発訴訟は不当判決が続いていただけに、「裁判をやってよかった」と胸をなで下ろしました。
阿部節子事務局員は、法廷で傍聴することができずに裁判の報告集会で国に勝ったことを知りました。判決が東電の責任について「悪質性はなかった」としたことに、「あれだけ事故隠しをしていながら『悪質性』がなかったなどとは到底認めがたいです」と、強い憤りを感じています。
さらに、市民が負った損害について「被害は今も続いています。判決が示した賠償額は、進行形の被害の実相に見合ったものからは程遠い」と批判。提訴から判決まで8年間かかったことに「結果を聞かずに亡くなった原告もいます。スピード感のある裁判を求めます」と話します。
伊東団長は「勝ったことについては率直に喜びたい。18万人を超える公正な判決を求めた署名を提出したことが大きかったと思います。被告の国と東電は必死です。攻めのたたかいを築く必要があります。舞台は仙台高裁に移ります。原発事故を二度と起こすなという社会の風を裁判所に届かせたい」と新たな決意を述べています。
県民を守る政策を
原告団・弁護団はこの裁判を「政策形成訴訟」と位置付けて取り組んできました。
要求しているのは、▽県民の将来にわたる健康を守る施策を確立する▽安全・安心を取り戻すことが大前提の復興をすすめる▽避難を続けている人への支援の継続▽被害者に対する偏見に基づくいわれのない社会的差別をなくす▽原発をなくし、再生可能自然エネルギーの普及を最優先した政策に転換する▽新たな支援立法、あるいは「子ども被災者支援法」を改正する―などです。
一審は国と東電の責任認める
いわき市民訴訟の一審判決は、国と東電の共同責任を認め、計約2億円の支払いを命じました。
2002年に公表された政府の地震調査研究推進本部の地震予測「長期評価」を取り込んだ津波対策を、遅くとも09年8月までに国はとるべきだったとしました。その上で、東電に対して改善を求める命令を出す義務があったのに怠ったことを「違法」としました。
東電については、09年8月以降、津波対策を講じる責任があったとしました。
損害賠償に関しては、原告はすべて避難指示区域外のいわき市民でも「事実上避難を強いられる状況にあった」と認定したものの、期間を限定し、国の指針を若干超える慰謝料の支払いを命じました。
原告団・弁護団は「被害の実相から目をそらす不当なもの」としました。
(「しんぶん赤旗」2021年4月13日より転載)