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2021とくほう・特報 どうみる福島第1原発事故中間報告 審査に関わる問題多数

中間報告で指摘された放射性物質などを含むガスの経路

 原子炉建屋上部に大量の放射性セシウム、期待された機能を果たさなかった機器、爆発に水素以外の可燃ガスの寄与…。原子力規制委員会が今月まとめた東京電力福島第1原発事故の中間報告書には、原発の審査にもかかわる重大な問題が指摘されています。(松沼環)

 規制委は中間報告のため新たに現地調査などを行い、2019年秋から外部有識者を含む検討を再開しました。現地の放射線量が低下した一方、廃炉作業によって現場が改変された箇所も増え、記録を残す必要があったという理由からです。

ベントガス 「相当量」の逆流

 調査の一つが格納容器の圧力を下げるために行う排気(ベント)の配管などの汚染状況です。調査の結果、2号機のベントが1度も成功しなかったこと、1、3号機のベント時には水素などを含む「相当量」のベントガスが原子炉建屋内に流入したと判断しました。

 格納容器から直接排気を行うベント配管は、過酷事故対策として1994年以降に後付けされた装置です。建屋内に格納容器からガスが漏出した場合にフィルターなどを通して排気する配管(非常用ガス処理系配管)を利用して排気筒に導かれています。

 元東芝・原発プラント設計技術者の後藤政志氏は「逆流したのは当然です。ベント時の格納容器と建屋の圧力差を考えて設計していないから。安易に既存の配管を利用して設置したことが問題です」と話します。

福島第1原発の2号機5階から格納容器上のシールドプラグガンマカメラで撮影した様子(白抜き部分は画像を加工)。シールドプラグ上は高い放射線量を示す赤色に見えます=2020年1月30日、原子力規制委員会提供

格納容器 高温で機能喪失

 今回の報告で廃炉作業への影響からも注目を集めたのは、格納容器の上部に敷かれた3重のコンクリート製の板(シールドプラグ)の上から1枚目と2枚目の間に大量のセシウム137があると分かったことです。シールドプラグの位置がずれている1号機では東電の過去の調査から100兆~200兆ベクレルと推定しましたが、2、3号機では新たに測定を実施し、2号機で2京~4京ベクレル程度、3号機では3京ベクレル程度と評価しました。

 これは、事故時に大気中に放出したとされるセシウム137の量約1京5000兆ベクレルを上回り、当時1~3号機の炉内に存在していた約70京ベクレルの1割近くです。

 シールドプラグの2枚目と3枚目の間、3枚目の下面にもセシウムが付着している可能性が指摘されていますが、まだ調査できていません。シールドプラグに大量に付着していたセシウムは、格納容器と上蓋(うわぶた)のすき間から放出されたと考えられます。

 後藤氏は「2、3号機では幸いセシウムがシールドプラグに付着し環境中に放出されませんでしたが、格納容器が機能喪失したということです。ベントは大気中に放射能を放出してでも最後のとりでである格納容器を守って放射能の大放出を防ぐというもの。2号機ではこれもできずに、大量の放射能が格納容器外に出てしまっています」と指摘します。

 格納容器の上蓋は、漏えいを防止するためのシリコン製のシール材を挟んでボルトで締め付けた構造ですが、高温によるシール材の劣化やボルトの膨張で、気密性が失われた可能性が以前から指摘されていました。電力会社は事故後シール材の耐熱性を上げたとしていますが、「事故時の温度を考えればまったく不十分」と後藤氏は指摘します。

 報告書では、このほか圧力容器の圧力を調整する弁(SR弁)も事故時の高温で、半開き状態を繰り返す想定外の挙動を示したことも指摘されています。

 「いずれも設計時に、事故の状態を突き詰めて考えていなかったということです」という後藤氏は、今回の報告書について次のように話します。

 「福島第1原発事故の全体のシナリオが分かっていません。今回の報告は断片的なもので、まだ結論を得ていない中間報告にすぎません。規制委の審査では、電力会社は事故の状態にあれこれ条件を付けて、その上で対策が成功すれば大規模な放出にならないと想定していますが、全くあてになりません」

東京電力福島第1原発3号機原子炉建屋内の様子。3階のはりは鉄筋がむき出しになり、曲がっています=2019年12月12日、原子力規制委員会提供

爆発 可燃性有機ガス

 中間報告は事故当時のテレビカメラで撮影された映像などを基に1、3号機の爆発について検討し、3号機の爆発は多段階の事象だとしています。つまり建屋内で爆発が生じ、建屋が変形。次に燃え残った可燃ガスが建屋から押し出され、外気に触れて酸素を得て再び燃焼しながら球状の噴煙になって上昇。その際、巨大ながれきが200メートル以上持ち上げられたというものです。

 さらに撮影された炎の色から、1、3号機の爆発は、水素以外に可燃性の有機化合物が相当量存在していたと指摘。3号機爆発時、建屋内の酸素ガスに対して「燃焼可能量を大きく超える量」が存在していたと推定しています。爆発時にみられる上昇する黒っぽい噴煙は、コンクリートなどの粉じんではなく、有機化合物が燃焼した際のすすや煙ではないかと指摘しています。

 有機ガスの発生源については、検討会の議論で格納容器内の塗装やケーブル被覆材が挙げられています。原発に対する規制委の審査では、水素爆発について燃料棒被覆管に用いられているジルコニウムの酸化によって発生する水素量で判断されています。ケーブル被覆材などから可燃ガスが発生することはまったく考慮されていません。

 3号機で発生した可燃ガスは、爆発時に建屋内の酸素を使い果たし、巨大な球状の炎を形成し、さらに4号機建屋の爆発やベントで大気に放出されています。

 旧原子力安全委員会事務局の元技術参与・滝谷紘一氏は「どんなガスがどの程度の量発生したのか、規制委は再現実験を含む安全研究を立ち上げて早急に調べるべきです。福島第1原発事故で何が起きたのか、また審査を通った原発でもそういった恐れがないのか検証すべきです」と指摘します。

 「まだ多くの論点が取り残されている」と滝谷氏は言います。滝谷氏は、地震で機器が壊れた可能性、それにより事故の進展に影響を与えた可能性などを挙げながら「今回の報告書にはそういった大局的な視点がありません。大事故が起きたら規制機関が徹底的に解明を行うことは、一般産業では行われています。それができないような産業は社会から追放されるべきではないでしょうか」と話します。

(「しんぶん赤旗」2021年3月30日より転載)