きょうの潮流

 一本の綱を握り締める、いくつもの手。ふるさとの伝統行事「巨大ダルマ引き」を題材にとった壁画が福島・双葉町で描かれています。昨年、JR双葉駅前から始まった企画の一環です▼きっかけは同町の出身者と壁画制作会社「オーバーオールズ」との出会い。ひとが消え、時がとまった町でのろしをあげ、復興にむけ一歩を踏み出したいとの願いを込めて。そこには10年たっても全町避難が続くもどかしさがあります▼荒れ果てたふるさと。さびれた家の中に干したままの色あせた衣類は、日常が奪われてからの長い年月をしのばせます。いまだ故郷を離れ帰ることもかなわない苦しみ。その一つ一つが、原発と国の責任を突きつけています▼「私たちのつらさを伝えたい」。近隣の町でひとり暮らしを強いられている志賀徳子さん(73)は双葉町の原子力災害伝承館で語り部を務めています。転々とした避難先で味わった肩身の狭さ、心ない言葉。「なにも悪いことをしていないのに…」▼いま国は「福島イノベーション」の名のもと、原発被災地で巨大開発を進めます。事故発生時から被災者を支えてきた共産党の馬場績(いさお)・浪江町議は便乗型のゆがんだ復興だと批判。一人ひとりの町民の実情にあわせた生活再建の支援を求めています▼汚染水や汚染土。いまも被害をひろげている原発事故。志賀さんは各地の原発が同じ状況になるかもしれない、この悲惨な現状にもっと目を向け、声をあげてほしいと訴えます。生業(なりわい)を返せ、ふるさとを返せと。

(「しんぶん赤旗」2021年3月12日より転載)