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対談 原発事故10年(3) 元中央大学教授(核燃料化学) 舘野淳さん 元日本大学准教授(放射線防護学) 野口邦和さん

舘野 “先祖返り”する規制当局

野口 避難計画なく再稼働とは

 ―廃炉の展望もみえないなかで、原発再稼働が進んでいます。

 野口邦和・元日本大学准教授(放射線防護学) 事故当時、安全に最高の責任をもっていた内閣府原子力安全委員会と安全審査をしていた経済産業省原子力安全・保安院への批判が高まり、1年半後に廃止されました。

 同時に原子力規制委員会ができ、新規制基準をつくりました。でも実際に進んでいることをみると、あまり良くはなっていないと国民も受け止めています。

 舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学) 当初の規制委にはあった緊張感が消えて、規制委も事務局の原子力規制庁も、トラブル・事故隠し体質、無責任体制で物事を進めるような“先祖返り”が進行している―。それが事故10年の特徴といえます。きちんと追及しなければならない。

 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)で社員が昨年9月、中央制御室に不正入室しましたが、規制庁の役人は4カ月近く、委員に報告しませんでした。

東電に資格はない

 野口 東電に原発を運転する資格があるのかどうかを判定する時期でした。規制庁が忖度(そんたく)したとしか思えません。

 舘野 官僚がそういうことをやりだすと、組織全体が信用できなくなります。

 新規制基準への適合性の審査でも、問題点が具体的に表れています。審査の“目玉”といえば、シビアアクシデント(過酷事故)対策なんですね。設計者が予定した以上の事故が起こっても何とかしようという対策です。

 もともと原子炉をつくるときに大丈夫だといって運転を始め、こんな事故が起こった。沸騰水型軽水炉(BWR)の限界が表れたわけです。当面は使うのをやめて、設計の根本から見直すのが普通の安全性の考え方です。

 シビアアクシデント対策と称して、お手軽の装置(例えば代替循環冷却装置)を付加して、「これでシビアアクシデントが起こらなくなった」と宣言するようなやり方で本当によいのか、抜本的にBWRの欠陥を追究する必要があるのではないか。

 シビアアクシデント対策として挙げているのがベント(原子炉内の圧力を下げるために中の気体を放出する作業)です。放射性物質を住民に浴びせることを対策にあげるのがおかしい。建設時は「止める・冷やす・閉じ込める」と説明されてOKを出したのに、今は「止める・冷やす・放出する」になった。これは約束が違います。

妥協的な適合審査

 冷却ができず福島事故が起こりましたが、ポンプをつけて水の循環をさせれば大丈夫だと。何かあったら消防車や電源車など可搬型装置をつなぐといいますが、地震のとき果たして持っていけるのか疑問です。非常に電力会社に妥協的な適合性審査なのです。

 あと可燃性ケーブルも問題です。米国の原発でろうそくの炎がケーブルに燃え移って原子炉の制御ができなくなった教訓として難燃性ケーブルに取り換えるはずだったのに、不可能だから難燃性の塗料を塗ればいいと。炉心溶融が起きた場合に溶融物の受け皿となる装置「コアキャッチャー」もつけなくてよいことになっています。

 野口 老朽原発の問題では、40年を超える原発の運転は「例外中の例外」としていたのに、今は申請すればほとんど再稼働を認めるようになっています。

 ―避難計画の問題もあります。

 舘野 東海第2原発(茨城県)の周辺は人口密度も高く、避難できないのに、規制委はOKを出しています。

 野口 チェルノブイリ原発事故では人口4・5万人のプリピャチ市の住民が事故翌日に1100台の大型バスで避難しました。もっと人口の多い日本でバスを用意し迅速に避難できるのか疑問です。避難計画がなくても原発が認可されるのは大問題。国はぜんぜん熱心ではない。

 舘野 国際原子力機関(IAEA)の多重防護の考え方では、第5のレベルとして住民が被ばくしない手段が必要だとしています。しかし国は自治体任せにしています。結局は無責任体制です。(つづく)

(「しんぶん赤旗」2021年3月10日より転載)