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対談 原発事故10年(2)・・元中央大学教授(核燃料化学) 舘野淳さん 元日本大学准教授(放射線防護学) 野口邦和さん

福島第1原発の構内を移動する全面マスク姿の作業員=2月19日

野口 デブリ工法さえわからず

舘野 技術開発含め展望が必要

 ―廃炉の道筋をどうみますか。

 野口邦和・元日本大学准教授(放射線防護学) 政府や東京電力は、2041~51年に廃炉を終了すると言っています。しかし、これまでの作業工程がこれだけ遅れ、最難関の工程が残っているのに終了時期だけは変わらないというのは、ありえないと思います。

 51年といえば、私が生きていれば99歳。長い時間監視しなくてはいけない。

 舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学) 福島の人と話したら、デブリ(原子炉から溶け落ちた核燃料)が本当に取り出せるかを気にしていました。無理なら無理だと早く教えてほしいと。ただ、取り出せず埋めてしまうといっても、あんなに地下水があるのでは…。

 野口 そこがチェルノブイリ原発事故との違いです。上をコンクリートで密閉すればいいという話ではない。

 舘野 地下を密閉する方法もありますね。

 野口 おわん型の地下構造物を、あれだけ大きな敷地につくるというのは、世界的にも経験がない大工事になるでしょう。果たしてできるのかどうか…。

 舘野 やはり取り出さざるを得ないのでしょうね。でも「何十年後に取り出す」と言いっ放しにするのではなく、技術開発を含め展望を示す必要がある。

 野口 まだデブリ取り出しの環境整備をやっているだけで、取り出しの工法さえはっきりしていません。

 建物の劣化も課題です。避難住民の家が管理されないでいるとボロボロになっているのと同じで、原発も見えないところで劣化しているはずです。

作業員被ばく心配

 舘野 作業員の被ばくも心配です。

 野口 事故直後は東電社員の被ばく量が大きかったですね。協力企業の作業員にできないことがあって、線量が高い現場に投入されたようです。翌年以降は、協力企業の作業員の平均被ばく量が東電社員を上回り、全体的には下がりました。現場の作業環境は良くなっていますが、ここ数年はあまり変わっていません。今後、廃炉に向けて核心部の線量が高い場所に近づく作業が増え、被ばく量も増えるかもしれません。

 ―放射能汚染水を処理した後にタンクにためている「アルプス処理水」について、政府は薄めて海に流すことを検討しています。

 野口 事故直後は高レベル汚染水が海に漏れて魚が汚染されましたが、海水で薄まり、魚の世代交代もあって、水産庁のデータをみると、汚染濃度は着実に減っています。昨年には、福島県海域の水産物の出荷制限指示はすべて解除されました。

 福島の漁業がようやくここまでたどり着いた今の時期に海洋放出を強行すれば、風評被害を拡大させ福島の復興にはつながらない。風評被害が起きたときに損害をどのように賠償するのかの話もなく、政府の考え方がみえない。不透明すぎます。

 舘野 処理水にトリチウム(3重水素)以外の放射性物質は入っているのですか。

処理水の保管可能

 野口 処理水の7割が排水の基準値を超えています。トリチウム以外の放射性物質を浄化して基準値以下にする必要があります。昨秋ようやく約2000トンを浄化したにすぎません。

 舘野 (処理水の処分方法は)風評と政治という、科学以外の問題になっています。

 野口 とりあえずの合理的な解決策といえるのは、原発の近隣の土地を借りるか買うかして敷地を広げて保管することです。政府は難しいと主張しますが、本気でやるつもりがあればできるはずです。(つづく)

(「しんぶん赤旗」2021年3月9日より転載)