東京電力福島第1原発事故に伴い千葉県に避難した住民が国と東電に損害賠償を求めた千葉訴訟第1陣控訴審で、19日の東京高裁判決の要旨は次の通り。
【科学的知見としての長期評価】
2002年7月31日に地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」は、福島沖を含む日本海溝沿いの三陸沖北部から房総沖までの海溝寄りの領域で、過去400年にマグニチュード8クラスの大地震が3回発生しているとして、同様の地震がこの領域内のどこでも発生する可能性があるとする。「長期評価」について03年の地震本部が公表した信頼度評価で「発生領域の評価」などの信頼度が「やや低い」とされているが、これは過去の地震データが少ないことによるもので、「長期評価」の基礎となっている科学的知見の信頼性が低いことを理由としない。
経済産業相は、02年2月に土木学会が策定・公表した「津波評価技術」の知見に依拠して規制権限行使の要件具備の判断をしていたのであり、少なくともこれと同等の科学的信頼性を有する「長期評価」に示された見解を判断の基礎としないことは、著しく合理性を欠くというべきである。経済産業相としては、「長期評価」が公表された後のしかるべき時期に、東電に依頼するなどして津波の評価をしていれば、08年にされた津波の推計の結果と同様に福島第1原発に敷地高を大きく超える津波(15・7メートル)が到来する危険性があることを認識し得た。
【講じるべき措置】
「長期評価」の見解に依拠して想定される津波が福島第1原発に到来した場合において、全電源喪失という重大な事故を防ぐための措置としては、防潮堤等の設置のほか、タービン建屋や重要機器室の水密化の措置を想定することが可能であり、想定すべきだった。
【事故との因果関係】
想定すべき対策が講じられていれば、今回の津波の影響は相当程度軽減され、事故と同様の全電源喪失の事態には至らなかったと認めるのが相当である。また、「長期評価」の公表から遅くとも1年後には技術基準適合命令を発することができたと認められ、その時から地震発生までの約7年半を費やせば、技術基準に適合させるための措置を講ずることが可能だった。これらを総合すると、経済産業相の規制権限不行使と事故との間には、因果関係があったと認められ、規制権限不行使は違法。
【東電と国の責任】
今回の事故は、国の規制権限不行使と、東電の福島第1原発の運転等と相まって発生したものと認められるから、国と東電はそれぞれ責任を負う。国の立場が二次的・補完的なものであるとしても、国の損害賠償責任の範囲を限定することは相当でない。
【避難生活に伴う精神的損害以外の精神的損害】
居住地からの避難を余儀なくされた者は、さまざまな生活上の活動を支える経済的、社会的、文化的環境の生活環境がその基盤から失われた場合や、ある程度の復興をしたとしても生活環境が大きく変容した場合には、慣れ親しんだ生活環境を享受することができなくなり、精神的損害を被った。元の居住地への帰還を果たすべく暫定的な生活の本拠における生活を継続するか、帰還を断念するかの意思決定をしなければならない状況に置かれること自体による精神的損害がある。これらの精神的損害は、避難生活による慰謝料とは別に賠償されるべきである。
(「しんぶん赤旗」2021年2月21日より転載)