「原発事故によって全域が『警戒区域』に指定された場所です。老夫婦で、あるいは独りで帰還されている高齢者が多いのです。心配です」▼福島県の南相馬市小高区に住む作家、柳美里さんは自身のブログやSNSで発信し続けました。13日深夜に起きた最大震度6強の地震。10年前の恐怖がよみがえり、不安の一夜を送った人たちの思いが生々しい▼揺れは、津波は、原発は大丈夫か? 東電はいち早く「異常なし」と発表しましたが、実は事故で損傷した原発格納容器の水位が下がり続けている、地震の影響で損傷部が広がったか、と1週間もたって公表。冷却水の漏れはないといいますが…▼国や東電がふるさとを奪った―千葉県に避難した住民の「ふるさと喪失」をめぐる訴訟で、東京高裁は国の対応を断罪し東電とともに国にも賠償を命じました▼2002年に国が公表した地震予測の長期評価に依拠し対策を講じていれば、第1原発の全電源喪失という事態は生じなかった。東電に対策を命じなかったのは規制権限の不行使だ、と。原発を推進しながら、役割を果たさぬまま原発頼みの政策に走る国に対する痛烈な批判でもあります▼「心に希望の光をともしてくれた」。判決後の集会でマイクを握った原告、南原聖寿(せいじゅ)さん(61)は妻子とともに南相馬市小高区から千葉県君津市に避難しました。原発事故から10年の節目。事故さえなければ別の人生を歩んでいた人たちに、判決が「新たな出発となる」ことへ痛切な願いが込められています。
(「しんぶん赤旗」2021年2月21日より転載)