福島市郊外の佐原地区で、約60年の歴史を刻む「ささき牧場」。乳牛と子牛で30頭と小規模ながら、搾った牛乳を自ら加工し、直接消費者のもとに届けます。東日本大震災と原発事故から10年。県内で唯一の製造と販売を両立させる牧場には、困難を乗り越え夢に向かって歩む姿がありました。
牛たちの吐息が静かに響く牛舎で、佐々木光洋さん(51)は手早く、やさしく、搾乳器をたわわな乳房に取り付けていきます。(写真)
光洋さんは2代目の牧場主。父・健三さん(80)が開いた牧場と、牛乳を加工販売する有限会社佐々木牛乳、そして「おいしい、安全、手ごろな値段」という“こだわり”を受け継ぎました。
搾った牛乳は敷地内の施設で63度の温水で30分かけて殺菌されます。「低温、長時間殺菌だと牛乳本来のすっきりとした甘さが出ます」と光洋さん。
値段も、900ミリリットルのビン入りで300円。「毎日飲み続けてもらえるギリギリ」に抑えました。1日400本が市内を中心に宅配されるほか、カフェやお菓子原料として愛されています。
「自分たちが自信をもってつくったものを直接お客さんに届けたい。規模を大きくしなくても家族だけでやっていけるという方法の一つが、牛乳の生産から販売まで手掛けるという選択でした」
光洋さんに引き継がれた「こだわり」は、乳価の低迷や原発事故、コロナなど、相次ぐ危機を克服していく原動力となります。
(写真・記事 佐藤研二)
(「しんぶん赤旗」2021年1月9日より転載)