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「生業」原発訴訟 仙台高裁が断じたもの(上) 不誠実報告 国は唯々諾々と

仙台高裁前で生業訴訟原告勝訴を伝える原告、弁護士ら=9月30日、仙台市

 先月末に出された「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の仙台高裁判決(上田哲裁判長)は、東京電力福島第1原発事故をめぐって国と東電の責任を厳しく認定したものです。同原発の敷地を超える巨大津波を予見できた時期から8年以上もの間、漫然と3・11を迎えた東電に対し、規制権限を行使しなかった国の怠慢や「事業者と一体化した言動」など国の責任を裏づける具体的事実を指摘した点が注目されます。(「原発」取材班)

 裁判の焦点の一つが、文部科学省の地震調査研究推進本部(地震本部)が2002年7月に公表した地震予測「長期評価」の信頼性です。「長期評価」は、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけて日本海溝寄りのどこでもマグニチュード8クラスの津波地震が、30年以内に20%程度の確率で発生すると予測していました。東電は08年に「長期評価」に基づき、敷地を超える高さ15・7メートルの津波が襲来するとの試算をしていました。判決は「相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かし難い」としました。

長期評価の判断

 高裁で国が主張したのは、経済産業省の旧原子力安全・保安院が「長期評価」について「調査を尽くした結果」「科学的知見であるとの判断に至らなかった」という点です。根拠は、保安院が02年8月に行った東電へのヒアリングです。

 判決はヒアリング内容を詳しく取り上げています。保安院は当初、福島から茨城沖も津波地震をシミュレーションすべきとの見解を示したものの、東電が40分間くらい抵抗したため、シミュレーションすべきとの見解を撤回。地震本部に「長期評価」の根拠を確認するよう東電に指示します。すると東電は、「長期評価」に反対の趣旨の論文を発表した学者1人に問い合わせ、学者が「長期評価」に異論を唱えていたことなどを保安院に伝え、了解を得たというものです。保安院は自ら調査せず、東電の報告をうのみにしただけで、当該学者に確認することすらしていません。

防災対策を回避

 判決は東電の対応については「『長期評価』の見解に基づき福島第1原発に到来する津波について検討させられることをおそれ、シミュレーションの実施を何としても回避しようとする意図に基づくものであったことが強くうかがわれる」と指摘。約6年後に判明した高さ15・7メートルの試算以後の対応も含め、東電の姿勢は「(対策に必要な)負担の大きさを恐れるばかりで、防災対策を極力回避し、先延ばしにしたいとの思惑のみが目立っている」「安全寄りに原発を管理運営すべき原子力事業者としては、あるまじきものであった」と指弾しています。

 国の対応についてはどうか―。

 判決は「いかにも都合の悪い情報を隠そうとしていることが疑われるような」東電の対応だったのだから、シミュレーションの要請を撤回した保安院の対応は適切でないとしています。その上で「東電の不誠実ともいえる報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかった」と断罪しています。(つづく)

(「しんぶん赤旗」2020年10月13日より転載)