7月30日午前9時36分、気象庁は東北から関東、東海、北陸など広い範囲を対象に緊急地震速報を発表しました。しかし、いずれの地方でも揺れを観測せず、同庁は誤報だったことを認めました。その原因としてあげたのは、発生した海底に近い場所に地震計が無かったこと。海底で発生する地震の観測はどうなっているのか探りました。(原千拓)
緊急地震速報が発表されたのは、東京都伊豆諸島の鳥島近海を震源とするマグニチュード(M)5・8の地震が発生したためでした。気象庁は、本来の震源とは異なる房総半島沖に震源を推定し、房総半島南方沖から800キロメートル以上離れた小笠原諸島の母島観測点で観測されたデータを用いたため、地震の規模をM7・3と過大に推定したとしています。同庁の担当者は「海底の震源決定は難しく陸地から100キロメートル離れると正確には決まらない」と説
明。対策としてマグニチュードの算出には震源からの距離が700キロメートル以下の観測データを使用するとし9月7日から運用を開始しました。
近くか遠くか判断できない
国立研究開発法人防災科学技術研究所・地震津波火山ネットワークセンター副センター長の髙橋成実さんは「伊豆・小笠原諸島では、観測点は陸上にしかなく、鳥島などの無人島には地震計の設置やメンテナンスが難しいため観測点がありません。今回のケースの場合、観測点が地震の揺れの伝播(でんぱ)を感知した際、小さな地震が近くで発生したのか、大きな地震が遠くで発生したのか判断ができなくなってしまうことがあります。本来は即時に分からないといけませんが、現在のリアルタイムの観測網では少し難しいと考えられます」と説明します。
太平洋海底に監視システム
現在、国内海域の海底観測網には、北海道から千葉県の房総半島沖までの太平洋海底に150カ所設置された日本海溝海底地震津波観測網(S―net)や三重県南東沖の東南海地震想定震源域と和歌山県の南沖から高知県南東沖にかけての南海地震想定震源域を対象に計51カ所設置された地震・津波観測監視システム(DONET)があります。
特にDONETは地殻変動のようなゆっくりとした海底の動きから大きな地震動や津波まであらゆる種類の信号をキャッチできる多種類のセンサーが搭載されています。
DONETの設置と運用に携わっている髙橋さんは「地震がどこで起きているのかを把握するためには、小さい地震もきちんと観測しデータを積み重ねて地殻活動の全容を見ることが重要です。小さい地震が地殻内の応力(力の大きさや力が働く方向)を表しているからです。また海底の地盤がどのような地質でどれほどの硬さでどのくらい分布しているかなど地殻の構造を把握することも重要です。地震が起きたときにプレート境界で起こったのか、そうではないのか判断がしにくくなるからです」とDONETの意義を強調します。
今後の調査・研究について「現在、これまでの調査から海底の3次元構造を構築し、断層の情報を得ることができつつあります。これまでのDONETの観測データから、どの断層のどこで余震が起こり、本震はどこだったのか地震活動を把握できるようになってくるのではと思います。海底の断層構造を把握することでより正確な震源決定につながると考えられます」と期待を込めます。
S―netやDONETが設置されている海域以外の海底での地震観測について髙橋さんは「海底に観測点があれば今回のような緊急地震速報の誤報はなくなり、海底で何が起きているのか実態が分かると思いますが、設置には大変な作業とコストがかかります。日本の海域全体をカバーするのか、津波に限定して備えればよいのか、その地域の防災上の特性の評価が必要だと考えます」と指摘します。
(「しんぶん赤旗」2020年9月21日より転載)