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福島に生きる 薬剤師 遠藤きよ子さん(69) 避難者が薬求め殺到

 福島県須賀川市に住む遠藤きよ子さん(69)は2011年の「3・11」のとき、福島市内の保険薬局の保険薬剤師で薬局長を務めていました。

■薬持たずバス連ね

 福島市は東京電力福島第1原発から60キロ離れていましたが、昼も夜も何台ものバスを連ねて、多くの人が避難してきました。

 避難者は着の身着のままで避難したために普段服用していた薬をもたずに、また持参した薬を飲みきったという人も多くいました。

 そうした避難者は、保険薬局に殺到しました。当時は「お薬手帳」の普及も低く、薬剤師はまず薬の名前を調べることから始めました。

 「目が回るほどの緊急事態に遭遇しました」と遠藤さん。

 避難生活は長期化し、薬の確保は命の確保。切実でした。

 安定ヨウ素剤を求めて詰め掛けた人たちもいました。

 安定ヨウ素剤は「放射性ヨウ素による甲状腺被ばくの抑制効果がある」と、されていました。国や県の指示で配布・服用されるものでした。

 原発事故で三春町などいくつかの自治体は、国や県の指示を待つことなく自主的判断で、安定ヨウ素剤を配布しました。

 同町は、40歳未満の町民に、(1)副作用があること(2)本来医師の判断が必要なこと―などを説明。保健師や看護師が服用の指示を行ったとされています。

 遠藤さんは、当時を振り返ります。「放射線による健康被害を心配し、安定ヨウ素剤を求める人たちが薬局に来ました。私たちは放射線による汚染状況の情報もなく、また国や県による安定ヨウ素剤の配布・服用指示の情報も確認できず、つらい状況でした」

■計測器買い調べた

 福島県須賀川市生まれです。大学で薬学を学びました。「製薬会社の利益優先による薬害問題が多発していることを知りました。サリドマイド、スモン、薬害エイズと、どれもが深刻な被害でした。患者さんの立場に立った薬剤師になろう」と思いました。

 居住地の須賀川市では、キャベツやキュウリなどを栽培する農民が原発事故での放射能拡散被害に苦悩して、自死する事件がおきました。「同じ須賀川市民でそこまで考えている人がいたんだ。人ごとではない」と、大変ショックを受けました。

 勤務先の福島市渡利地区は放射線量が高く「避難勧告が出されてもおかしくない」状況でした。放射線量の計測器を自分で買って調べました。「原発そのものが間違っている」と感じて、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の原告に加わりました。

 「国策で原発を推進してきました。国の加害責任をきちんと認めた判決を期待します」と、30日の仙台高裁判決に希望を託しています。(菅野尚夫)

(「しんぶん赤旗」2020年9月11日より転載)