日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 地方から問う 福島・新地町・・国・東電また海汚すのか

地方から問う 福島・新地町・・国・東電また海汚すのか

 東京電力福島第1原発の汚染水海洋放出を狙う国に対し、反対の声が急速に高まっています。「事故から9年余、海をまた汚すつもりか。最後は漁業者に押しつけようとするのは許せない」と声を上げる、福島県浜通りの最北端、新地(しんち)町の漁師を訪ねました。

 (福島県・野崎勇雄)

 寒流と暖流がぶつかる福島県沖は、茨城県沖と合わせ国内有数の好漁場。捕れた魚は「常磐もの」と呼ばれます。新地町の釣師浜(つるしはま)漁港には、試験操業による魚介類の水揚げを終えた漁船が並びます。

 「今の時期はシラスがよく捕れる。大震災前より多いぐらいだ。これだけ捕れると、やっぱりうれしい。漁師は魚を捕って何ぼのもの。以前は仲間と張り合い、競争で漁をしたものだ」

本格操業準備

 海を見ながら語るのは、漁師歴53年の小野春雄さん(68)。「(原発事故後の)風評被害で、隣の宮城県より3~5割安く、このままだと漁業でやっていけない。去年の4月に新造船の漁船(『第十八観音丸』、4.8トン)を仕立て、こうやって本格操業へ準備している」と思いを話します。

 相馬双葉漁協によると、震災後の2012年6月に沖底船6隻、週1回で始まった試験操業は、現在、漁業種類ごとに週2~3回。水揚げ高は12年度の1138万円から19年度には136倍の15億5000万円に伸びました。本格操業に手ごたえを感じています。

 15歳で漁船に乗った小野さんは、30歳で初めて自分の船を持ち、船長になりました。荒天以外はほぼ毎日、漁に出、年間出漁日数は新地町の漁師のなかでトップ級。機能性を求めて船を何度も造り変え、「第十八観音丸」で6隻目。「町でこんなに造った船方はいない」と思いをはせます。

息子への責任

 2011年3月の大震災・原発事故後、漁民は半減し、新地町でも120人から60人を切るまでに激減。後継者問題が難しくなるなか、小野さんの長男・智英(ともひで)さん(38)、次男・晋弘(ゆきひろ)さん(37)、三男・晋介(しんすけ)さん(28)と、いずれも漁師の道へ。小野さんは長男と雇った2人の4人で操業、次男と三男はそれぞれ別の船に乗っています。

 「原発の廃炉まで漁師をはじめ県民のたたかいが続く。その一端がトリチウムなどの汚染水。海に流され、将来、何かあったら誰が責任を取るのか。残るのは海で生計を立てる漁民だけだ」と小野さん。「息子たちを漁師の道に引き入れた責任もある。そうはさせない」と表情を引き締めます。

汚染水問題 欲しい安心の漁業

 福島県では、県議会と21市町村で汚染水の海洋放出反対や国に慎重な対応を求める意見書、決議が可決されています。

 新地町では日本共産党の井上和文町議が6月議会で「汚染水海洋放出に町としても明確に反対の意思を示し、地上保管を国に求めるべきだ」と提案。住民団体「原発・放射能を考える相馬・新地の会」の陳情内容もくみ上げ、町議会として海洋放出を行わないよう求めた意見書を全会一致で可決しました。

 「議会で全員協議会を開いて論議したが、流すのはまずい、風評対策の努力が無駄になるという意見が多数でした」と話すのは、遠藤満議長です。「漁民からも意見を聞いた上での全会一致。私自身も意見書と同じ考えです。汚染水を流さないでほしいし、漁業関係者や県民の理解が得られることをやってほしい」

 漁の合間を見て各地で訴え続けている小野さんは言います。

 「私たちは『安心』がほしい。汚染水が流されれば、福島県沖は漁民がいなくなってしまう。指導する立場の国がしっかりして、汚染水放出はだめだ、陸上タンクに保管をと言ってほしい。私たちが若い人たちのために頑張るのは今しかない」

(「しんぶん赤旗」2020年7月26日より転載)