佐賀県玄海町で、これまでドクターヘリの離着陸場として使われていた町有地のグラウンドに、玄海原発の工事に携わる作業員の宿舎が建てられました。住民の命にかかわる問題が、なんの説明もなく行われたことに怒りの声が広がっています。
(佐賀県・古賀誠)
「玄海町という小さな町で住民説明の段取りをしなかったのは町としてまずかったのではないか。そんなことをしたら町民から町が見放されるのではないか」と、グラウンドがある地元地域の男性が語ります。
よく使われていた
問題のグラウンドは、統廃合で閉校になった町立値賀(ちか)中学校の跡地。ドクターヘリの離着陸場として、2019年には玄海町に4件着陸したドクターヘリのうちの4件ともこのグラウンドを使用。18年は6件中3件と頻繁に使用されてきました(唐津市消防本部資料)。さらに、地域の少年野球や“草野球”の練習場所としても使われ、地域の交流の場でした。
ところが、玄海原発3、4号機のテロ対策施設建設にあわせ、グラウンドは大手ゼネコンの大林組に22年8月まで賃貸されました。テロ対策施設は、期限までに完成しなければ原発の運転が禁止されるため、工事が急ピッチですすみ、多くの作業員が働いています。
大林組から町教育委員会に賃貸契約の要請があったのは、19年6月20日。7月29日に使用許可が出るまで、少年野球の関係者などに伝えたほかは説明がなく、住民の多くは工事が始まってから建設に気づきました。
グラウンドのある平尾地区の菅原千喜(ちよし)区長は、「昨年の盆前に私のところに教育委員会から『町の決定事項なので』と、グラウンドの賃貸を一方的に伝えてきました。さらに職員は『他の区長は納得してもらっています』といいました。しかし、その数日後、他の区長から『グラウンドの借地なんて、何を勝手なことをしてるんだ』と怒られました」と振り返ります。
聞いてみると、他の区長には、「平尾の区長は納得している」との説明が職員からされていました。「こんなうそをよく言えたものです。住民を無視するやり方です」と憤ります。
同年9月には町区長会が開かれ、区長の了解がないまま進められていることを菅原区長が批判。出席していた脇山伸太郎町長は「原発事業推進のため理解してほしい」とのべました。
このグラウンドが使えなくなってから、ドクターヘリは総合運動場や旧値賀小学校など他の閉校した学校のグラウンドを使用するようになっています。
共産党が町に要請
今年4月にドクターヘリが、旧値賀小学校付近に着陸する様子を見た80歳の女性は「飛んできて旋回を繰り返し、降りるのに時間がかかっていた。迷ったのではないか。友人の5人も同じように話していました」と不安を口にしました。
日本共産党玄海支部・後援会は6月19日、脇山町長に申し入れを行いました。申し入れでは、町民の声も紹介し、ドクターヘリが下りられる「緊急場外離着陸」の舗装・整備を早急に行うことなどを要請しました。
唐津市・東松浦郡(玄海町)選挙区の井上祐輔県議は「ドクターヘリは一分一秒を争う住民の命を守るためのもの。それが『原発事業推進』を理由に、住民置き去りで進められることは許されません。原発は民主主義をも壊してしまう」と話します。
(「しんぶん赤旗」2020年7月19日より転載)