東京電力福島第1原発事故の汚染水処分をめぐって、福島県内の議会で次々と可決される意見書。その文章には、原発事故の被災地の苦悩と、国民的議論を置き去りにしたまま処分決定を急ぐ政府への憤りがにじみます。
「福島県は(東日本大震災、原発事故、新型コロナウイルス感染症の)3重の苦しみを克服しようと懸命に努力している。このような中、海洋放出が実施されたとき、国内外の風評被害を招き、4重の苦しみを背負わされる」(郡山市)
「海洋放出は海洋環境を汚染し、漁業従事者にも大きな打撃を与える。これまで農畜水産物などの安全性の確保や風評被害の克服に取り組んできた生産者の努力と将来への展望を根底から覆すことになる」(石川町など)
多くの意見書は、すでに被害をうけている県民に“追い打ち”をかけるような事態を懸念。浪江町は「今なお残る風評被害に何ら有効な対策もないまま実施すれば、町の存続にも関
わる重大な問題」としました。
タンク増設には後ろ向きな一方、海洋放出には前のめり姿勢の政府と東電への厳しい批判も。会津坂下町(あいづばんげまち)は、公聴会での漁業崩壊への不安や長期保管の声に一顧だにしない政府に対して「被災県民の心情や実情を無視したものと言わざるを得ない」と断じました。
西郷村は、事故で汚染水を発生させた東電の「当然の義務」として、大型タンクでの保管やモルタル固化なども選択肢に入れ厳重に管理・保管するよう要求しました。
政府は、トリチウム水の安全性に問題ないと説明しますが、政府や東電への不信感もあり疑念は払しょくされていません。汚染水の処分によって新たな被害を生まないためには世界的・国民的な理解と合意が不可欠。しかし「国の説明を理解している人は少ない」などと国民的な議論を求める声が多数です。
石川町、喜多方市、南会津町は、原発再稼働や核燃料サイクル政策をやめ、再生可能エネルギーへの転換を要求に掲げました。南相馬市は、長期の廃炉作業で「子や孫に何を残すのかが問われる」と投げかけました。
国・東電は、この声受けとめよ
日本共産党の神山悦子(かみやま・えつこ)福島県議 意見書や決議が、原発事故の避難地域がある浜通り地方だけでなく会津地方の議会も含めて、どんどん広がりをみせているのは、若者の運動など、あちこちで県民の声が広がった結果だと思います。
新型コロナウイルス問題で大変なときに国は議論を進めていますが、漁協や農林業、消費者団体からも、海洋放出を決めるべきでないと声があがっています。国連の人権専門家も懸念しています。
国と東京電力は、この声を真摯(しんし)に受け止めるか問われています。コロナ禍にまぎれて拙速に決めるのは、とんでもないことです。
「海洋放出ありき」は県民の総意とはまったく違います。選択肢を海洋放出と大気放出の二つに絞ったこと自体が問題です。政府はトリチウムだけを問題にしていますが、タンク内には約7割に告示濃度(放出基準)超えの放射性核種が含まれているのです。陸上保管など、別の方法に世界の英知を集めるべきです。
(「しんぶん赤旗」2020年7月8日より転載)