政府・大手 原発・石炭火力を温存
大手電力有利の新市場導入
温暖化防止、「脱原発」をかかげ、再生可能エネルギー(再エネ)の普及を進めている環境・市民団体が「再エネ新電力、再エネの危機」を訴え、オンラインによるセミナーを精力的に開いています。(徳永慎二)
セミナーは、脱原発・再エネ普及を進める「eシフト」の主催で6月18日に開催されました。
2016年4月に始まった電力小売全面自由化から4年。新電力会社が相次いで設立され、消費者は東京電力など大手電力会社以外の新電力からも電気が買えるようになりました。再エネ重視の新電力を選ぶ消費者が増えています。
新電力のシェア4年で3倍以上
全販売電力量に占める新電力のシェアは、16年4月の約5%から20年3月には約16%までのびました。一方で大手電力は約95%から約84%に落ちています。(グラフ)
本来、原発は自由化の価格競争のなかでは淘汰(とうた)されます。そこで政府と大手電力は、大手電力が原発を維持するためのさまざまな方策を編み出しています。
その中心となっているのが、三つの電力市場。7月から始まる「容量市場」は、「将来の供給力確保」を口実に、原発や石炭火力の設備温存のために、全小売電気事業者から拠出金を徴収する仕組み。原発も再エネと並ぶ「非化石」として取引する「非化石価値取引市場」、原発、石炭火力を「ベースロード」として取引する「ベースロード市場」です。
セミナーでは、原子力資料情報室の松久保肇さんが「大手電力は巨大資本、既存の設備・顧客、ネームバリューを持ち、電源の9割を保有している。新電力と比べ、価格競争では著しく有利だ」と指摘しました。
「大手電力の発電所は古い設備ほど減価償却が進んでいる。新たな市場は、そのような古い設備でもお金がもらえるしくみになっている。大手電力への不公平な補助金といえる」といいます。
再エネ新電力の一つ、「みんな電力」の三宅成也さんは「自由化と言うが、ほとんどの発電所は大手の所有で、新電力は大手の余った電力を買っているのが現状だ。価格競争ではとても勝てない」といいます。「再エネ新電力は価格で大手につぶされる」と危機感を表明しました。
ドイツの再エネ事情に詳しい千葉恒久弁護士は、ドイツが容量市場を導入しなかった経緯を詳しく報告。(1)だれでもわかるように政策決定の道筋をオープンにした(2)石炭火力を温存することにつながるという環境コストを重視した―ことなどをあげました。
龍谷大学教授の大島堅一さんは、新たな三つの電力市場について「無用の電力市場を乱立させて複雑にしている。たとえば聞いたことのない『非化石価値』ということばを使って市場をつくっている。原発と再エネをセットにするのは意味がない」とのべました。
持続可能社会へ消費者の役割大
では、どう対処すればいいのか。みんな電力の三宅さんは「なにより、消費者の声が、再エネを広げるカギだ」と強調。「自然エネルギー発電は、地域分散型だ。それにあった顧客取引システムを支援すべきだ」といいます。
全国消費者団体連絡会の浦郷由季さんも「価格だけで電力会社を選ぶのではなく、将来の持続可能な社会のために、どんな電力会社を選ぶのか考えることが大事だ」と消費者の役割を力説します。
自然エネルギー財団の大林ミカさんは「(原発か再エネか)電源構成の開示がないと消費者は安心して電気を買えない」とのべ、電気の中身を明示することを提起しました。
司会したFoE Japanの吉田明子さんが、三つの新市場の廃止について解説したリーフレット(「STOP!原発を温存する新たな電力市場の問題点」 http://e-shift.org/?p=3827)の活用をよびかけました。
(「しんぶん赤旗」2020年7月3日より転載)