地域振興へ 活用法の検討重要
廃炉作業中の高速増殖原型炉もんじゅ(敦賀市)の敷地で文部科学省が計画している試験研究炉の新設を巡り、文科省は24日、建設可能な炉型として熱出力500~1万キロワットの低出力炉か中出力炉、さらに小型の臨界実験装置を有力な候補として検討していると明らかにした。今夏に開く有識者の作業部会の意見を踏まえ、9月末が期限の2021年度政府予算の概算要求までに方向性を示す見通し。(西脇和宏)
試験研究炉に関する敦賀市会向けの説明会を24日開き、19年度までの検討状況を報告した。廃炉が決まっている日本原子力研究開発機構の材料試験炉(JMTR、茨城県大洗町)のような2万~5万キロワット級の高出力炉は、もんじゅ敷地内の地理的条件から建設が難しいと判断した。
もんじゅ南東の高台にある資材置き場と焼却炉のスペースを候補地とし、既存の試験研究炉を参考に建設可能性を検討した。大阪府にある京都大、近畿大の研究炉のような低出力炉か中出力炉に加え、京都大の臨界集合体実験装置のような施設は建設可能と説明した。実現可能性は低いものの、技術的な課題をクリアすれば国内に例のない新型炉の建設も見込まれるとした。
臨界実験装置や低出力炉、中出力炉の建設費は、設計費や新規制基準対応費などを除く概算で約200億~約500億円。今後、候補地の地質などを詳細に調査した上で、具体的な炉型の絞り込みを進める。本年度中に概念設計に着手、2022年度の詳細設計開始を目指す。試験研究炉の運営体制も検討した。原子力機構などの研究機関と県内外の大学が連携して整備・運営し、地元自治体と産業界が支援する枠組みが適切との案を示した。
説明した文科省の清浦隆原子力課長は「原子力分野の研究開発で西日本の中核的拠点を目指し、産学官から広く人材が集まることで地域振興に貢献できる」と強調した。
もんじゅの敷地に新設される試験研究炉は、実用炉やもんじゅのような大規模施設に比べ、雇用など直接的な効果は薄い。研究施設だけで地域振興につながらないことは、県のエネルギー研究開発拠点化計画の現状が物語っている。どのような炉ができるかはもちろん、どう活用するかの運用面の検討がより重要になる。
もんじゅの廃炉を巡り、敦賀市や市会は地域経済の影響を不安視し、廃炉前と同水準の千人規模の雇用維持を強く求めた。政府は10年間は雇用を維持し、その後の減少分を補う道筋を示すとしている。24日の説明会で市議は「研究者や技術者、学生が敦賀に定住し、消費などで経済に役立ってこそ地域振興につながる」と主張した。
試験研究炉の新設は、高経年化が進んでいる京都大、近畿大の研究炉の後継の役割も期待される。昨年10月に敦賀市で開かれたシンポジウムで、京都大の研究者は材料や医療、宇宙関連など幅広い分野の産業利用が地元の振興につながっていると強調した。
敦賀でも産業界を巻き込んだ共同利用の枠組みづくりが求められる。利用拡大では、鉄道がなく、バスの利便も悪いもんじゅ周辺へのアクセスを不安視する研究者は多い。こうした課題の改善には、県や市の関与も欠かせない。
(西脇)
(「福井新聞」2020年6月25日付けより転載)