文芸誌『群像』4月号の特集「震災後の世界9」は、東日本大震災から9年たった今、私たちは何を心に刻み、何をなすべきかを考えさせます▼福島県郡山市出身の作家・古川日出男氏は「福島のちいさな森」と題し、シイタケ生産業者の家に生まれ育った半生と福島第1原発事故を振り返ります。県土の71%が森林で全国4位の森林面積を誇る福島で、原木と菌糸に囲まれた子ども時代。森は希望を与える存在でした▼家業を継いだ兄は、中国産シイタケの流通、値崩れ、リーマン・ショック等の度重なる打撃を乗り切るも、ついにあの日に襲われます。家は半壊。放射能汚染の代名詞となったシイタケは売れず、県内の農家や酪農家の自死に自らの行く末を見る兄の苦悩▼なぜ今も家業を続けているのかを語る兄の言葉が胸を刺します。「茸(きのこ)類が、原発事故のシンボルだからこそ、やめるわけにはいかなかった」▼歴史学研究者の山本昭宏氏は、2015年に死去した作家・野坂昭如の一貫した原発批判の姿勢を紹介。その原点が空襲体験や幼い妹を救えなかったことへの贖罪(しょくざい)にあった野坂は、戦時体制と原発体制の連続性を指摘しました。いわく「原子力平時利用は、現在生きているわれわれが、未来の人類の生命財産、人間らしい生き方、人間にふさわしい自然環境を収奪破壊することで、当面の文明を支えようという企(たくら)みである」▼汚染土、汚染水、使用済み核燃料…。未来の世代への責任として解決すべき問題は山積しています。
(「しんぶん赤旗」2020年3月30日より転載)