「塩浜は福井県ナンバー2の建設会社。なぜいつまでも元請けとして参画できないのか」。2011年9月12日、高浜町の元助役森山栄治氏(故人)らが関電幹部に迫った。だが、応対した豊松秀己原子力事業本部長(当時)ら2人は「できるだけ仕事をしていただきたいと考えるが、元請けは勘弁してもらいたい」と断った。報告書によると、このやりとりの3週間後、森山氏から豊松本部長に現金1千万円が渡った。
「塩浜」とは、敦賀市の建設会社「塩浜工業」のことだ。第三者委の調査報告書に、このような生々しい会話が記されている。
結局、この現金は返金された。
このやりとりが、取締役らが対象となる会社法の収賄罪に当たるかどうか。第三者委は14日の記者会見で、豊松氏に受領の意思があったと言い切れなかったとし、「非常に疑わしいが、(事件として)成立するかというと難しい」との見解を示した。
収賄罪が成立する要件は、金品と工事発注に明確な因果関係があること。しかし、森山氏が金品を役員らに渡した時期と、森山氏関連企業への工事発注時期は一致しない。第三者委は「特定の工事発注の依頼やお礼ではなく、就任や昇進祝いとして長年にわたり金品を渡していた」と結論づけた。第三者委の委員長を務めた元検事総長の但木(ただき)敬一氏は会見で「森山氏は亡くなっており、確証もない。(刑事告発は)正直難しい」と語った。
では、特別背任罪は問えるのか。この場合、役員による森山氏関連企業への工事発注が関電に損害を与えたかどうかなどが成立要件となる。ただ、第三者委は「価格操作がなかった」などとして、やはり立証は困難とみている。
こうした第三者委の見解に対し、八木誠前会長らを告発した市民でつくる「関電の原発マネー不正還流を告発する会」は、「不公正な契約発注を続けた関電役員らの刑事責任を問うのが難しいというコメントは理解できない」と真っ向から反論。高浜町の建設会社「吉田開発」などへの強制捜査や、国税局が持つ重要な資料の押収が必要と訴える。
大阪地検が告発を受理し捜査に乗り出すのか。今後の司法判断に注目が集まる。(嶋本祥之)