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原発事故9年 福島の漁業は・・福島大学准教授 林薫平さんに聞く(中)/タンクに隔離が前提

福島第1原発の敷地内にあるタンク群=2月19日(本紙チャーター機から山形将史撮影)

 ようやく本格操業に向けた一歩を踏み出した福島県の漁業。東京電力福島第1原発事故で出た汚染水を浄化した後、タンクにためられている処理水を薄めて海に流す案が取りざたされています。林薫平・福島大学准教授は「今の議論の仕方はおかしい」と話します。

対策の“到達点”

 漁師たちが試験操業を手探りで始めつつあった2013年、原発地下の汚染水が海に流出し続けていることが明らかになりました。それを東電は「漁業の風評被害を恐れて完全なデータがそろうまで発表しない」という姿勢で公表してきませんでしたが、全くのナンセンスです。あまりの衝撃に試験操業は数カ月ストップしました。

 その後、ようやく本格的な汚染水対策が始まりました。原発の西側(山側)の地下水をくみ上げて海に抜く「地下水バイパス」が14年に開始。15年には建屋の周囲の軽度に汚染された地下水を浄化して海に流す「サブドレン」が始まりました。漁師は、海への汚染水流出を止めるために協力してほしいと言われて、たび重なる放出計画を“苦渋の選択”として受け入れざるを得ませんでした。

 15年10月に「海側遮水壁」が完成。陸と海が遮断されて、汚染水流出がようやく食い止められ、漁師はホッと一息つけました。

 その一方、原発敷地で増え続けるのがタンクです。当初は漏えい事故も起こりましたが、今は溶接型タンクで安全にためられています。タンクに安全に隔離できていることは、苦労してきた汚染水対策の“到達点”であり、漁業再生の前提になっていると評価することがまず必要です。早期に放出するというのは、その意味をないがしろにしているのです。

結論を押しつけ

 処理水の処分法を検討した政府の小委員会の議論はまっとうなものではありませんでした。タンクで当面ため続けるための敷地や用地のやりくりを模索する意見や提案が、多くの委員から出されました。しかし政府・東電は「水漏れが心配」「廃棄物は動かせない」「調整が大変」などとばっさり却下しました。

 他方、放出案は、具体的な運用に伴う、敷地境界線量の上限値順守、周辺地域や関連産業への影響回避など、数々の大変な検討事項があるのに、あっさり実現可能性を保証しました。最初から結論ありきという印象だけが残りました。

 放出案を推奨する結論は、事務局が用意して他の案を却下し続けて最後まで押し通したものであって、「専門家が検討した成果」というには程遠いものであることは、全17回の議事録を見ていただければ分かります。

 (つづく)

(「しんぶん赤旗」2020年3月19日より転載)