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原発事故9年 福島の漁業は・・福島大学准教授 林薫平さんに聞く(下)/積み上げたガラス細工

 福島第1原発の敷地のタンクにためている「処理水」を薄めて海に流すとなると、きわめて大量の水を長期間、流し続けることになります。それが沿岸地域でどのような事態になるのか、想像した上での結論でしょうか。

 風評対策をするといいますが、例えばテレビ広告に○○億円出すといった通りいっぺんの対策ではなく、具体的に自立自走できるまでの漁業の回復を担保できる具体案は見つかるのでしょうか。海洋放出すると決まったときに、漁師や水産会社が設備投資できるでしょうか。若い社員を雇用できるでしょうか。

 これまで9年間、ガラス細工のように積み上げてきた漁業復興の前提が根本から崩れることになってしまわないか…。地元漁協の代表者が「築城10年、落城1日」と言った真意はそこにあるのです。

復興含め議論を

上空から見た福島第1原発=2月19日(本紙チャーター機から山形将史撮影)

 原発汚染水は、これまで電気を使った人々が生み出した廃棄物です。国民一人ひとりが考えるべき問題です。

 「漁業者が納得していないのでダメ」「性急な処分案はダメ」として、「漁業者への丁寧な説明」を求める論調があります。政府のごり押しをいさめる点では心強いのですが、一面では危うさを感じることもあります。自分の問題でなく、傍観者の意見のように聞こえることがあるのです。

 国民的スケールで、福島の復興も含めて自分が関わることとして議論しなければ「東電敷地での貯蔵継続か海への放出か」という局所的にひっ迫した状況をますます深める議論になります。問題を地元にとどめているだけでは、どちらにしてもつらいのです。

国民全体の問題

 沖縄の新基地建設の問題と同じで、「政府に丁寧な進め方を求める」ことでは全く解決しません。国民一人ひとりが、それぞれ自宅の庭に、原発と汚染水タンクと米軍基地があったらどうするのか、全部置いたところから、考えてほしいと思います。そして原発と基地への依存を変えていくなら、自分の身の回りからどのような取り組みを起こしていくことが必要なのか。それを抜きに、政府の姿勢だけいさめたり批判したりしても、立地地域に矛盾がしわ寄せされている現状を解決することにつながらないのではないでしょうか。

 (おわり)

(「しんぶん赤旗」2020年3月20日より転載)