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視標「関電第三者委の調査報告書」・・属人的な運営踏襲の悲劇

 関西電力の第三者委員会が3月14日に公表した調査報告書で、少なくとも以下の点が明らかにされた。まず第一に、福井県高浜町の元助役森山栄治氏(故人)からの多額の金品提供に関して、自己顕示欲を満足させるための「権威の誇示」や「礼儀の実践」などが目的であったと捉えた2018年9月の社内調査報告書の内容を完全に否定している点である。

 それは、見返りとして自身の関係する原発関連企業への工事発注の強要とその企業からの経済的利益を得ること、すなわち、実態は工事受注に向けての利益供与であったと解している。

 第二に、金品提供は社内調査では20人に対して総額3・2億円とされていたが、調査期間や調査範囲などの拡大もあって、今回の調査では55人増え、総数75人に対して総額3・6億円に上ることを認定した。さらに関電側が元助役らに対して続けてきた目に余る回数と金額の供応接待の事実も明らかにした。

 つまり、元助役と関電関係者の社会的な儀礼を逸脱した癒着となれ合いの関係が、組織全体にはびこっていたということである。双方での利益供与のあしき慣行に対して、関電関係者の上層部全てがまひしてしまっていたのである。

 第三として、税務当局からの指摘を受けて修正申告した豊松秀己元副社長ら4人の役職者の処遇だ。金品の受領総額の8割弱を4人が占めていたことから、18年9月に社内処分されたが、驚くことに、昨年6月の株主総会後の執行部体制では全員が昇進ないしは厚遇されているという事実である。これだけを見ても、関電上層部の常軌を逸したリスク感覚のなさと、厚顔無恥の体質にあぜんとするのである。

 先の社内調査報告書では、一連の金品提供に対して個人ベースでの対応が基本とされており、会社として対応する仕組みはなかった。そうした決断もされなかったことから、元助役との関係を壊さないよう腐心しながら返還しようと努めた担当者に対しては「同情さえ禁じ得ない」との所感も述べられていたが、あまりの的外れにあきれるばかりである。

 関電の場合、各事業部門の業務については、担当役職者それぞれが個人の裁量において「属人的」な組織運営を行うという管理体制が踏襲されていたのである。そのため、全てを任された本人としては自身の保身と、結果的に円滑な会社の業務運営と信用維持のためといったみ旗の下で、一様にコンプライアンス意識と倫理意識が劣化してしまったのである。

 属人的な組織管理では、現場からの情報が上がらないと同時に上からの指示も適切に伝わらず、組織の体をなしていないと言わざるを得ない。それは今日、強く要請される有効な内部統制やガバナンス議論以前の、前近代的な組織管理であるため、通り一遍のガバナンス強化論では全く通用せず、組織全体の解体的な出直しが不可欠である。

 そのためには、取締役会および監査役会の構成員全ての入れ替えと、緊急避難的にも、その過半を外部から招請し、組織全体のDNAの組み換えを行わなければ、新生関電への道のりは遠い。

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 はった・しんじ 1949年名古屋市生まれ。青山学院大教授などを経て2018年から現職、大原大学院大教授。専門は会計監査論や内部統制論。近著に「『第三者委員会』の欺瞞」。

(福井新聞2020年3月17日付けより転載)