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福島第1原発事故9年・・核燃料取り出し難航

 東京電力・福島第1原発の事故発生から9年。3号機では昨年、炉心溶融(メルトダウン)を起こした1~3号機の原子炉建屋では初めてとなる使用済み核燃料プールからの燃料取り出しが始まりました。しかし当初計画から4年以上の遅れとなり、1、2号機でも核燃料の取り出しは難航しています。その先には“本丸”である溶け落ちた核燃料デブリの取り出しが待っており、困難な道のりは長く続きます。(中村秀生)

3号機ようやく開始

 昨年(2019年)4月、3号機の原子炉建屋を覆うかまぼこ型のドーム屋根の下で、プールからの核燃料取り出し作業が始まりました。

 3号機は、2011年3月14日に水素爆発を起こし、原子炉建屋が激しく損壊。最上階にあるプールやその周辺に大量のがれきが散乱し、厳しい放射線環境のため人が近づくことは困難で、作業が遅れました。

 14年8月にはプール内に重量400キログラムの機器が落下する事故が発生。18年3月の燃料取り出し設備の試験運転開始後も、クレーンの異常やケーブル腐食などトラブルが多発し、当初は14年末としていた取り出し開始が4年以上ずれ込む結果となりました。

 さらに開始後も装置の不具合が続き、これまでに取り出したのはプール内にあった核燃料566体のうち91体です(1日現在)。東電は20年度内の完了をめざしています。

 事故発生時は定期検査中で原子炉に燃料がなく炉心溶融が起こらなかった4号機は、13年11月~14年12月にかけてプール内の全核燃料1535体の取り出しを完了しました。4号機の場合は、放射線量が比較的低く現場作業が可能でしたが、3号機ではモニターを見ながらクレーンなどを遠隔操作しています。

1・2号機は先送り

上空から見た福島第1原発=2月19日(本紙チャーター機から、山形将史撮影)

 1号機も、水素爆発で原子炉建屋の屋根が落下するなど大破。がれき撤去作業が進められてきましたが、現在も巨大な天井クレーンが崩落し、プールの核燃料取り出しを困難にしています。今後、建屋全体を覆う大型カバーを設置して、がれきや天井クレーンなどを撤去する計画です。

 昨年末に改定された廃炉工程表では、プールの核燃料取り出し開始時期を「23年度をめど」から「27~28年度」に先送りしました。

 2号機は、水素爆発を免れたものの、プールがある建屋最上階の放射線量が高く、既設の設備の復旧作業が難しいと判断。当初は、建屋上部の解体後に新たな設備を設置して取り出す計画でした。

 ところが昨年までの調査で線量低減が確認され、限定的な作業なら人の立ち入りが可能である見通しが得られました。そこで建屋上部を解体せず壁に穴を開け、隣に建設した作業用スペースからプールの核燃料を取り出す計画に変更。工程表改定で開始時期を「23年度をめど」から「24~26年度」としました。

デブリの全容つかめず

左上から時計回りに、1号機、2号機、3号機、4号機の原子炉建屋=1月17日、福島第1原発(代表撮影)

 1~3号機の原子炉には事故前、計1496体の核燃料(ウラン重量256トン)が入っていました。

 事故によって、高温になった核燃料などが原子炉圧力容器内で溶け落ち、その多くは圧力容器の底を抜けて原子炉格納容器の底にも流れ落ちました。

 核燃料デブリとは、高温の核燃料や燃料被覆管、炉心構造物が溶けて混ざり、冷え固まったものです。国際廃炉研究開発機構(IRID)の解析で、1~3号機のデブリの総量は600~1100トン規模と推定されます。

 2号機では、昨年2月に格納容器の底部に投入した調査機器で、デブリとみられる小石状の物体を持ち上げることに成功。ただ粘土状にみえた堆積物は溶岩のようで硬く、崩したり持ち上げることはできませんでした。

 東電は、21年内に試験的にごく少量の採取に着手し、段階的に取り出し規模を拡大する計画です。ただ本格的な取り出しには相当の困難が予想されます。

 3号機は、水中ロボットを使った調査により、原子炉直下で小石状や岩状の堆積物の分布が確認されました。1号機は、現場の線量が非常に高く調査は進んでいません。自走式ロボットの調査でデブリは確認されず、新たな調査ルートの構築が進められています。

 1~3号機とも、デブリがどこに、どれだけ、どんな状態で存在しているのか、全容はつかめていません。

 政府と東電は、廃炉の完了時期について当初の目標(11年12月から30~40年後)を変えていません。東電は今年1月、過酷事故に至らなかった福島第2原発でさえ、廃炉完了まで今後44年かかるとする見通しを明らかにしています。福島第1の廃炉の見通しに疑問の声があがっています。

 原発の危険性について早くから警鐘を鳴らしてきた核・エネルギー問題情報センターの舘野淳事務局長(核燃料化学)は「具体的な作業が遅れ、廃炉完了の時期について誰も信用していない。デブリ取り出しが可能かどうかも不確定だ」とみています。「普通の原発と違って、放射性物質が“野ざらし”のような状態にあり、地震・津波や大雨など自然災害に対する危険性が大きい。急ぎすぎると被ばくが増える問題はあるが、この状況を早く終わらせるため、作業員の規模拡大や技術開発への力の投入など、計画を立て直す必要がある」と話します。

(「しんぶん赤旗」2020年3月11日より転載)