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福島に生きる 生業訴訟一陣原告 薄夏江さん(70)・・心からの謝罪と償いを

 福島市に住む薄夏江(うす・なつえ)さん(70)は「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第1陣原告です。

 2011年3月に起きた東京電力福島第1原発事故の被害者が、13年3月に国と東電を相手に原状回復と損害賠償を求めて福島地裁に集団提訴しました。この時、夫の日出夫さんは、家族を代表して原告に加わりました。

 未曽有の大震災と原発事故。夫の日出夫さんとともに救援活動に奔走しました。日出夫さんは、福島県の沿岸部(浜通り)で津波被害があった相馬市、新地町などに駆け付け、泥出し、がれきの撤去などのボランティア作業に従事しました。

■裁判引き継ぐ

 しかし、日出夫さんは1カ月後の4月に心筋梗塞で急死しました。裁判は夏江さんが引き継ぎました。

 夏江さんは、福島市にある生命保険営業所の事務職員を30年間務め、労働組合活動や新日本婦人の会などの活動に参加してきました。

 原発事故から9年がたとうとしています。この間、夏江さんは、さまざまな状況を見たり、聞いたり、裁判を傍聴したりするなかで、「国と東京電力の無責任な態度は許せない」と、激しい憤りを感じました。被害者に対する中傷などで国民との間に亀裂を生じさせる分断に悲しく思っています。

■「活用」に批判

 自民党の高市早苗政調会長(当時)が16年6月17日の神戸市での講演で「福島第1原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。最大限の安全性を確保しながら(原発を)活用するしかない」と発言しました。福島県内外から厳しい批判があがりました。

 福島原発事故は、想像を超える被害を招きました。福島県における東日本大震災と福島第1原発事故直後の震災関連死は、2286人(19年9月現在)。亡くなった原因としては、原発事故直後の避難所生活の肉体・精神的疲労▽避難所などへの移動中の肉体・精神的疲労▽病院の機能停止による初期治療の遅れ―などがあげられています。

 安倍政権は、原発事故はなかったことのようにして再稼働し、原発の海外輸出に乗り出しました。

 17年10月の一審判決は原状回復などの請求を認めませんでした。また、被害の実態に応じた十分な賠償ではありませんでした。原告団・弁護団は控訴。被告の国と東電も控訴しました。控訴審は今年2月20日仙台高裁で結審。年内にも判決が予定されています。

 「原発事故は命を奪い、未来を奪った」と言う夏江さん。「国も東電も誰もが責任を取っていません。お金じゃなく、心からの謝罪と償いを私たちの前に示してほしい」と語っています。(菅野尚夫)

(「しんぶん赤旗」2020年3月3日より転載)