東京電力福島第1原発事故で東電旧経営陣3人を無罪とした東京地裁判決を受けて検察官役の指定弁護士である石田省三郎氏は「かなり違和感があった」と会見で述べました。判決が、事故を防ぐためには「福島第1原発の運転停止措置を講じるほかなかった」と、運転停止だけに限定したからです。
公判で指定弁護士が主張したのは、津波が敷地に遡上(そじょう)するのを未然に防止する防潮堤などの対策などをあらかじめ講じていれば事故を回避でき、対策が完了するまで運転停止するべきだったというものでした。
安全は二の次
これに対し判決は、津波対策に着手したとしても事故前に完了できたのか、明らかではないとして、事故を防ぐ義務は運転停止を講じることに尽きると断定。運転停止はライフラインや地域社会に影響を与えるから、それに伴う「負担、困難性」を考慮すべきだと強調し、住民の安全は二の次にしました。
しかし、そもそも東電は、敷地の高さを超える津波への対応を検討しながら、2008年7月に対策の先送りを決め、事故前に何の対策にも着手しなかったのです。判決はその事実を無視しています。
対策を講じた電力会社が他にあったことが公判で明らかにされ、東電が何もしなかったことがいっそう際立ちました。
福島第1原発と同じ太平洋側にある日本原子力発電(日本原電)の東海第2原発(茨城県東海村)の津波対策を担当した元社員が法廷で証言。02年に国の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」の見解を採用し、敷地を超える津波の浸水を低減するための盛り土対策などを09年までに実施したと述べたのです。対策の実施方針は同社の常務会をへていました。
「同調した」と
公判では、日本原電など4社の担当者が出席する08年8月開催の「4社情報連絡会」のメモも示されました。東電が対策を先送りにした方針変更について、「各社東電の進め方に対する見解を社内で確認し、回答することとした」という内容です。これについて日本原電の元社員は「同調したということだ」と述べました。
さらに、日本原電が対外的な想定問答資料で「津波は、評価上建屋へ遡上はしません」と記載し、敷地を超える津波を想定して対策していたことを公表しないようにしていたことも判明しています。
日本原電が、対策を先送りにした東電に同調したのはなぜか。公判で指定弁護士は、同証人が検察の捜査で、日本原電としては、リーディングカンパニーである東京電力の方針に従わない選択肢は考えにくかったと述べたのではないかと問われ、「そういう言い方もしたかもしれません」と否定しませんでした。(随時掲載)
(「しんぶん赤旗」年9月26日より転載)