きょうの潮流

 福島第1原発の誘致から事故までの50年を描いた演劇「福島三部作」(東京・池袋で28日まで上演)。その最終章「2011年:語られたがる言葉たち」のアフタートークで一人の女性が声を詰まらせながら言いました。「東京に住む自分にできることはありますか」。愛知出身の女性も動揺を隠しません。「私はどうしたら…」▼被害者である住民同士が激しくなじり、傷つけ合う。悲痛な叫びがこだまのように劇場を埋め尽くします。しかし、それは彼らが一番語りたいことなのか。作・演出の谷賢一さん(37)は、地元テレビ局の女性ディレクターにこう語らせます。「(本当の声を)掘り当てることこそが報道の使命では…」▼この訴えは谷さんの思いでも。谷さんの母は福島県浪江町出身で父は原発の技術者。自身も幼少期を福島で過ごしました。「悲痛な言葉の裏側にある声を掘り当てたい」と2年半にわたって取材。100人以上の人々から聞き取りました▼最終章では地元テレビ局と東京キー局との攻防も。キー局が求めるのはセンセーショナルなわかりやすさです。「福島に生きる人々を傷つけるような過激さや単純化なら、おらは許さね」と抵抗を示す主人公の報道局長▼そのモデルがテレビユー福島の大森真さんです。「マスコミのような空中戦ではなく現場で汗を流したい」と定年を前に退職。今は飯舘村の職員です▼テレビマン時代のモットーは「福島県民に生きる自信と誇りを取り戻す」。メディアのあり方として学ぶことは多い。

(「しんぶん赤旗」2019年8月24日より転載)