北海道電力(北電)の泊原発3号機(北海道泊村)の審査が長期化しています。原子力規制委員会の更田豊志委員長は、泊原発の本体審査について「少なくとも1年くらいは始められる状況にない」と述べています。いったい何が起きているのでしょうか。
(松沼環)
問題となっているのは、北電が活断層ではないと主張している敷地内の断層(F―1断層)。2月に開かれた審査会合で規制委の石渡明委員は、F―1断層が「活断層であることを否定できない」と発言。手持ちのデータでは反証できない北電はその2カ月後の審査会合で、追加調査をすると表明しました。
北電主張に追従
F―1断層は原発で想定される地震の揺れ(基準地震動)の算出に大きく影響するので、活断層かどうかの審査は、機器の耐震性などの原発本体の審査に先行する必要があります。
2013年7月の新規制基準施行とともに審査申請がされた原発で、審査が継続しているのは泊原発のみです。その背景には、北電の主張の問題点を指摘し続けてきた市民と科学者との運動があります。
泊原発については、東京電力福島第1原発事故以前から、積丹半島の西方沖、原発から約15キロの位置に長大な活断層があると専門家が指摘していました。しかし、北電はその存在を否定。当時の審査で経済産業省原子力安全・保安院は北電の主張を認めてきました。規制委も15年末の審査会合で、周辺地盤や基準地震動などについて北電の検討を「おおむね妥当」と了承していました。
再稼働の断念を
「行動する市民科学者の会・北海道」事務局長の小野有五(ゆうご)さん(北海道大学名誉教授。自然地理学)は、規制委の審査会合などを監視し、14年に同会を発足。「北電の言い分をほとんど認めてきた規制委の審査に危機感を持ちました。現地調査をして、やはり北電の評価はおかしいことが確信できたので、16年に初めて規制委に申し入れをしました」といいます。
小野さんらは、北電が敷地内の断層が活断層でないという根拠とした地層の年代推定方法の問題も指摘。規制委の現地調査に当たっては、事前に確認してほしいポイントや問題点を文書で示すなど、地道な働きかけを続けました。
17年3月の審査会合で規制委は、積丹半島の隆起について、活断層の存在が前提となる「地震性隆起であることを否定することは難しい」と指摘。さらに、北電がF―1断層など敷地内断層が活断層であることを否定する根拠とした火山灰層のデータ不足を指摘しました。
北電はすぐ追加調査を実施しましたが、複数の地点を調べても、地層の年代を決めていた火山灰層は見つかりませんでした。断層のずれがみられる地層の年代も、小野さんたちの指摘で北電の主張が崩れ、今年2月には審査会合でF―1断層が活断層であることが否定できないとされたのです。
小野さんは「今回の規制委の判断は当然です。ただ、積丹半島西岸沖の断層については、北電はその存在は認めたものの、長さをわずか10キロ程度にしか評価していません。そんな短い断層では説明がつかないのに、規制委も反論していません。今後も監視を続けていかなくてはいけません。また、北電は審査を引き延ばし続けるのではなく、再稼働を断念し原発から転換すべきです」と話しています。
(「しんぶん赤旗」2019年6月11日より転載)