東京電力は5月9日、福島第1原発の1、2号機排気筒の解体作業を20日に始めると発表しました。事故から8年あまり。早くから倒壊の危険が指摘されながら、これまで対策が進められずにいました。そこには通常の事故現場とは異なる、放射能事故に特有のジレンマがあります。(「原発」取材班)
1、2号機の近くにそびえる高さ120メートルの排気筒。内径3・2メートルの筒身を鉄塔で支える構造です。2011年3月の事故発生時に1号機のベント(原子炉内の圧力を下げるために中の気体を放出する作業)を行った影響で汚染され、13年には排気筒の根元付近で強烈な放射線源が見つかっています。最大で1時間当たり2万5000ミリシーベルト。そこに十数分間いるだけで人の致死量に達するという極めて厳しい放射線量です。近くへの立ち入りは制限されています。
損傷多数
排気筒は、中間付近で13年に支柱の破断や変形が8カ所見つかるなど、多数の損傷が判明しています。鋼材の腐食とみられる変色も確認されています。
15年には、事故で塗装が損傷し雨水や潮風にさらされた鋼材で腐食が進み、耐用年数の判断基準である10%の断面積減少が生じている可能性が「しんぶん赤旗」の調査で明らかになりました(同年2月20日付既報)。
3、4号機の排気筒では今年1月、高さ76メートルにあった点検用の足場(重さ22キロの鉄板)が落下しているのが見つかっています。
地震などで排気筒が万一にも倒壊すれば放射性物質が飛散するため、早くから懸念の声が高まっていました。
東電は、東日本大震災を引き起こした地震と同程度の揺れ(600ガル)では倒壊しないと評価。しかし新規制基準に準拠した場合に考慮すべき900ガルの揺れについては、評価に長期間かかるとして評価していません。また塗装の塗り替えや損傷箇所の補修も、作業による被ばくのリスクを冒せないなどとして行っていません。
遠隔操作
東電は、排気筒の上半分を解体する方針を16年に発表。昨年から今年にかけ解体装置の実証試験や準備作業をしてきました。今月20日に先端部のはしごなどを撤去し、21日から排気筒本体の切断を始めるといいます。
計画では、切断・把握機能をもつ解体装置を大型クレーンでつり下げ、筒身と鉄塔を上から順にブロック単位で高さ約60メートルまで解体します。
放射線環境は地面に近いほど厳しく、最上部で1時間当たり0・2~0・5ミリシーベルト、地上30メートル付近で同0・5~1・5ミリシーベルト、地上7~20メートル付近は同2~8ミリシーベルト。作業員の被ばく低減のため、解体装置は遠隔から操作します。事故当初のベントによって、筒身の内側には放射性物質が付着しているとみられ、切断時は放射性物質の飛散対策も実施します。
解体物は線量を測定し、必要に応じて分解しトレーラーで運搬。コンテナに収納するなどして、線量区分ごとに保管します。東電は同1~30ミリシーベルトのがれき類が約450立方メートル発生すると想定しています。解体作業は10~12月ごろまでかかる見通しです。
ギリギリ
この問題で早くから警鐘を鳴らしてきた、井野博満・東京大学名誉教授(金属材料学)は「東電は600ガルの揺れに耐えるとしているがギリギリの値。塩分を含む大気にさらされているので腐食も心配だ。今の状況を放っておけばもたないが、その一方で、作業を急げば被ばくの危険も高くなるので慎重に進めざるを得ない。通常の事故現場とは異なる放射能の事故のジレンマだ」と話しています。
(「しんぶん赤旗」2019年5月11日より転載)