日本の原発輸出計画がすべて行き詰まり、国内での原発新増設も見通せない中、政府をはじめ原子力を推進する業界やマスコミは、原子力技術の維持・継承や、人材の育成が課題だなどと声を上げています。安全維持や廃炉を担う人材も不足しかねないという主張もありますが、原発の技術に詳しい専門家は疑問視します。
(松沼環)
昨年、政府がまとめたエネルギー基本計画では廃炉のためにも「高いレベルの原子力技術・人材を維持・発展することが必要」と強調されています。また、今月8日に発表された経団連の“原発回帰”の提言にも「原子力の先行きが不透明ななかでは、技術と人材の維持もままならない」などとして、原発の建て替えや新増設を政策に位置付けるべきだと政府に求めています。
危機あおる論調
「原発のメンテナンスは90%ぐらい火力発電所と共通します。炉周りの原発特有のことも訓練プログラムなどがすでに使われていて、原発を新増設しないと維持できないような技術ではない」。そう指摘するのは、元米国ゼネラル・エレクトリック社(GE)技術者の佐藤暁さん。
原発を建設するための技術とはどんなものなのか―。佐藤さんはプラント屋と土木屋の仕事といいます。その上で、「そもそも発電炉を製造しなくても、原子炉には医療用やアイソトープ製造用などもあるのだから、原子力技術がなくなるわけではありません。それに発電炉が最新であるとか特殊というわけでもない。プラントとしても化学プラントなどもっと複雑なものがあります」と、技術維持の危機をあおる論調を批判します。
原発建設の実態について、元東芝の格納容器設計者の後藤政志さんはこう話します。「原発を開発しているわけではなく、原子力工学の専門家はそんなにいらない。付属する機械を作るなら機械工学科だし、電気なら電気工学科の方が専門。船舶をやっていた僕が格納容器を設計していたぐらいだから」
日本の原子力技術について、GEなどから技術を導入した結果、独自性がないという後藤さん。「安全性の問題に関しても、本気で追求する姿勢に欠けている。何が継承だと正直思う」といい「古い産業が廃れて、新しい産業が興るときに、前の産業の技術を残さないといけないと騒ぐのはおかしいでしょ」と批判します。
被ばく管理こそ
廃炉技術を担う人材も不足すると、不安をかき立てる論調もあります。佐藤さんは「全くの嘘(うそ)」と断言します。
使用済み核燃料を取り出せば、事故を起こさずに廃炉に至った原発に残る放射性物質は、運転中に高エネルギーの中性子が当たってできた核種です。解体と同時に、炉心周りや配管内に残るこれらを環境に出さないことや、作業員の被ばく管理が求められます。
佐藤さんは「廃炉は原理的にはスクラップ技術。アメリカの実績をみても、請け負っているのはプラントメーカーではない」と語ります。
後藤さんは「図面がそろっていることが大事。被ばくの管理などがコントロールできればいいので、技術継承などの意味では、議論にならない」といいます。
政府、東電が決めた工程でも30~40年かかるとされている福島第1原発の廃炉作業はどうか。
原子力規制委員会の更田豊志委員長は会見で、福島第1原発の廃炉技術や廃棄物の処理・処分のための人材は必要としながら、そのような技術を維持するための人材が「(原発の)新設との関連があるとは思わない」と答えています。
むしろ、日本での原発廃炉で最大の課題となっているのは、廃炉で出てくる廃棄物の持って行き場がないことです。技術の維持・継承などといって、原発を推進するのは、こうした問題をまるで無視した議論でしかありません。
(「しんぶん赤旗」2019年4月23日より転載)