真新しい学校で行われた卒業式。「この4月から、私たちはみずからが選び、信じた道を歩んでいきます」。震災の記憶を胸にした18人の巣立ちです▼津波によって多くの家が流され、町が壊された宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区。子どもたちはプレハブの仮設校舎などで授業を受けてきましたが、昨年小中の一貫校が開校。当時小学1年生だった生徒が新たな門出を迎えました▼あれから8年。月日や季節がめぐるなかで被災者の心の内はどうでしょうか。前に進める人、いまだに避難生活を余儀なくされ立ち止まっている人、深い苦悩から抜け出せない人…。日を重ねるほど一人ひとりの実情は複雑になっています▼ラグビーのW杯招致にわく岩手・釜石。仮設住宅でくらす高齢の夫婦は、もともと過疎地で細々と生きてきたのに、もう元にも戻れないと。「これからどうしたらいいのか」。さら地が広がる故郷で途方に暮れていました▼今も原発事故のさなかにある福島では、戻りたくても戻れない、戻っても生活できない状況が続きます。道路や鉄道の開通、できた施設ばかりを見て、復興は着実に進んでいると胸を張る安倍首相。その姿が、生きる希望や生業(なりわい)を求める被災者の願いとどんなにかけ離れているか▼これからは命の大切さを伝え、復興の担い手になって―。8年前、生徒14人を亡くした旧閖上中学にいた校長は先の卒業式でこう呼びかけました。それぞれの心に刻んだ3・11。それを生かすための道は、われわれ自身の手にあります。
(「しんぶん赤旗」2019年3月11日より転載)