日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 東電は賠償逃れやめよ・・原発事故が奪った自然・暮らし 和解拒否に町民提訴

東電は賠償逃れやめよ・・原発事故が奪った自然・暮らし 和解拒否に町民提訴

水のなくなった、ため池においてある除染土が入ったフレコンバッグを指さす鈴木さん

福島・浪江町

 東京電力福島第1原発事故で全町避難を強いられた福島県浪江町の町民109人が、1人当たり1210万円の損害賠償を求めて福島地裁に裁判を起こしました。昨年11月に提訴。第二陣、三陣提訴が予定されています。いずれも追加賠償を求めて、原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)による仲介を申し立てたものの、東電の何回にも及ぶ和解案の拒否の末、仲介が打ち切られた人たちです。

 (柴田善太)

 浪江町では町民の7割にあたる約1万6千人が2013年5月にADRで仲介を申し立て、14年3月には和解案が提示されました。和解案の内容は精神的賠償を月5万円、2年間上乗せするというもの。町民側は受諾を表明しましたが、東電は4年間、6回にわたって和解を拒否。18年4月に仲介が打ち切られました。

 同県南相馬市で避難を続ける原告団長で元町議の鈴木正一(まさかず)さん(68)は東電が3回にわたる特別事業計画で「和解案の尊重、迅速かつ、きめ細やかな賠償」を明記していることを指摘し、「言っていることとやっていることが全く違う」と憤ります。

 鈴木さんの自宅がある浪江町川添地区は17年3月に避難指示が解除されました。しかし今も放射線量は玄関先で毎時0・48マイクロシーベルト、室内でも毎時0・26~0・38マイクロシーベルトあります。政府の除染長期目標の年間1ミリシーベルトに相当する毎時0・23マイクロシーベルトを超えています。

 鈴木さんは家族の思いのこもったこの家での暮らしを考えています。壁の取り換えなどのリフォームで放射線量を下げる計画ですが、東電の賠償金では足りません。

 自宅の隣にある、ため池の除染は3月末までの工期で進められています。ワカサギが釣れ、白鳥も訪れる、ため池の水はなくなり、除染土を詰め込んだフレコンバッグが並びます。

 ため池に映る月を眺める楽しみも、地域の仲間も、親戚の行き来もなくなりました。避難生活の中で母が亡くなり、愛犬も死にました。「虚無感は時間がたつにつれ増していく」と鈴木さんは言います。

 「私たちの生活を根こそぎ奪った東電は賠償逃れに走り、国は傍観する。このまま終わるわけにはいかない。お金の問題ではない。原発を推し進めた東電と国の責任を裁判を通じて明らかにしたい」

●原子力損害賠償紛争解決センターが公表している、東電の拒否による和解仲介打ち切りの事例(浪江町以外のもの)

(1)福島県飯舘村蕨平区(旧計画的避難区域)の約100人(約90人)
(2)飯舘村前田・八和木区(旧計画的避難区域)の38人(30人)
(3)飯舘村比曽区(旧計画的避難区域)の約200人(約180人)
(4)飯舘村(旧計画的避難区域)の約3000人(約140人)
(5)福島県川俣町小綱木地区(自主避的避難等対象区域)の566人(562人)
(6)福島市渡利、小倉寺、南向台地区(自主避的避難等対象区域)の3139人(476人)
(7)南相馬市原町区(旧緊急時避難準備区域)の2人

 ※2018年末までの累計で東電の和解拒否で仲介打ち切りとなったのは121件。人数は申し立て人数で、( )内は仲介対象となった人数

【原子力損害賠償の請求手段と特徴】
(1)東京電力への直接請求
 →早期受領につながるが東電基準による低額賠償
(2)裁判外紛争解決手続きによる和解仲介申し立て
 →公的組織である原子力損害賠償紛争解決センターによる仲介。経済的負担はないが、東電への強制力がない
(3)民事訴訟
 →司法判断で強制力があるが、経済的負担が生じ、審理期間も長期化する

賠償指針の見直し必要

福島県弁護士会 澤井功会長に聞く

 裁判外紛争解決手続き(ADR)で東京電力の和解拒否が続く事態について、福島県弁護士会の澤井功会長に聞きました。澤井氏は1月、原子力損害賠償の範囲などを定めた「中間指針」の見直しを求める会長声明を出しています。

 集団仲介申し立てとして最大規模の浪江町の仲介が昨年4月に打ち切られました。同年5月に出した会長声明で、ADRで提示された和解案を東電側が一定期間内に裁判を起こして支払いを拒まない限り、和解案が確定するという内容の立法措置を求めました。しかしその後も、飯舘村、福島市の事例など東電の和解拒否の流れが止まりません。

 東電は「和解案は中間指針にかい離している」といって和解を拒否しています。それ自身は口実にすぎないのでしょう。集団仲介申し立てで和解すると被害が類型化されます。それが前例となり、申し立てていない人への賠償に波及することを避けたいのだと思います。

 ただ、「中間指針」は2011年に策定されたものです。この間、避難指示区域外の避難者(いわゆる自主避難者)の避難実費負担など、ADRで認められてきたことや、原発集団訴訟一審判決での成果もあります。今回の会長声明では、それらの成果を反映させ、ADRで提示された和解案の内容が賠償水準の最低限になるように「中間指針」の見直しを要望しました。何とか東電の和解拒否の流れを止めたいというのが会長声明の趣旨です。

 今、注目しなければいけないのは東電の原発事故に伴う損害賠償請求権の時効が迫っていることです。

 民法では不法行為の時効は3年です。福島第1原発事故については13年に特例法が成立し、10年に延長されました。時効が2年後に迫っています。提訴している人は時効は中断します。ただ、裁判は費用、期間の面でハードルが高いのでためらっている人がいます。この人たちが、集団訴訟の確定判決を見て提訴を考えても「時効でダメ」となる恐れがあります。再延長を求めることを考える時期です。東電の時効による被害者救済逃れを許してはいけません。

 本来、賠償や救済がなされるべき人がまだ多く残っていることを重視すべきです。避難指示区域外の避難者については、ごくわずか残っていた家賃補助などの特例措置も3月末で打ち切られてしまいます。

 「子ども被災者支援法」が、避難する人にも、福島に残る選択をした人にも、それぞれの選択を尊重して国が支援するという趣旨で12年6月に全会一致で成立しました。この精神はどこにいってしまったのでしょうか。政府、県の動きをみていると原発事故の幕引きの動きを感じます。

 原発事故が起きた県の弁護士会として被災者・被害者の救済が図られるように意見表明を続けます。報道も被害の実相を伝え、東電を世論で包囲してほしいと思います。

(「しんぶん赤旗」2019年3月10日より転載)