東京電力福島第1原発事故後、除染によって出た大量の汚染土をめぐって環境省は昨年、埋め立ての安全性を確認する実証事業を計画。福島県内と栃木、茨城で実施しています。「除染土を全国にばらまくな」という声が高まっています。(都光子)
栃木県那須町。国内有数の天然アユの遡上(そじょう)を誇る那珂川(なかがわ)が流れています。道の駅「東山道 伊王野」(とうざんどう いおうの)では寒ざらしそばが人気です。
そんな水自慢の町で、環境省は除染土をフレコンバッグから出し、埋め直す実証事業をおこなっています。場所は住宅地域そばの旧中学校テニスコート。昨年末に埋め立て作業が終了、現在計測中です。
実は、住民がこの計画を知ったのは、昨年2月1日付の地元紙。「那須の除染土実証事業 伊王野山村広場で実施」という記事でした。町はあわてて同月14日のホームページに掲載しました。
「どういうことなの?って、驚いた」というのは事業地の隣の地区に住む平野富子さん(69)。「除染で出た土はなんとかしてほしい。でも、環境省が町民の合意も得ずにやるのはおかしい」
那須町内の山林はそのままですが、住宅はほぼ全戸で除染作業がされ、はぎとった土は、その家の敷地内に埋めています。処分方法が決まっていなかったからです。平野さんの自宅の庭にも埋まっています。
住民の説明会も
実証事業に疑問をもった住民と、一般社団法人被曝(ひばく)と健康研究プロジェクト(田代真人代表、ノーベル賞受賞の益川敏英さんらが顧問)が住民説明会を開くよう町長に申し入れました。5月には環境省にも住民説明会開催を要請しました。環境省は6月に住民説明会を開催。住民が110人ほど集まりました。
「安全です、の繰り返しだった」というのは新日本婦人の会那須町支部の住田ふじえさん(71)。放射能汚染の問題にとりくみ、環境省との直接交渉にもいきましたが、「説明もあいまいで、工事ありきの姿勢」といいます。
平野さんは「那須町のきれいな水と土が汚染されないか心配」と声を大にします。実証事業のそばには那珂川の源流が流れ、稲作や農業などへの影響を懸念する住民は多いといいます。
田代さんは「那須町だけの問題ではない。除染土の埋め立て基準がないため、この事業で基準を作り政令に反映すると環境省はいっている。汚染された土を全国で埋め立てるつもりだ。常磐自動車道で使う計画もある。安全というが、そうでない調査もあり住民は納得していない」と指摘します。
試験栽培の予定
除染土の埋め立て処分が県外ですすめられようとするなか、福島県内では、再利用のための実証事業が実施されています。
昨年12月に開かれた「除染土はどこへ? 環境省の除染土の再利用・埋め立て処分方針を問う」と題したシンポジウムで、福島県の飯舘村長泥地区での事業の問題を、日本大学特任教授の糸長浩司さんが報告しました。
長泥地区は同村内唯一の帰還困難地域。ここで、村内の5000ベクレル/キロ以下の除染土で水田を埋め、その上に新しい土をかぶせ、花などを試験栽培する実証試験が予定されています。
「帰還困難区域の除染は限定されるが、より広く除染してほしいという住民の気持ちを利用している。農地が汚染土壌の最終処分地になる。しかも山林の除染は放置されている。これでいいのか」と強調しました。
二本松市内で計画されたのは、道路の路床材への汚染土を使った再利用事業のための実証事業です。市民の反対でストップさせました。
「みんなでつくる二本松・市政の会」の佐藤俊一さんは「すべての汚染物は中間貯蔵施設に運び、30年後には国の責任で県外最終処分をする。これが国との約束です。事業撤回を求める署名は最終的に8000人を超えました。環境省の再生利用方針そのものを撤回すべきです」。
(「しんぶん赤旗」2019年2月1日より転載)