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原発ビジネス成り立たず・・安倍輸出戦略は全滅 英での計画 日立「凍結」

 原発メーカーの日立製作所が英国の原子力発電所建設計画を「凍結」する決定を下しました。これで、安倍晋三政権が成長戦略の一つに掲げてきた原発輸出は全滅です(図)。一方で国内の原発再稼働は推進し、「原発ゼロ」の世論に挑戦し続けています。

 「経済合理性に基づいて判断します」。日立の東原敏昭社長は、1月9日に開かれた情報通信ネットワーク産業協会の新年パーティーの会場でこう指摘していました。それから1週間後。日立は取締役会で「凍結」を決定。安倍晋三首相が「原発輸出」を「成長戦略」の目玉として位置づけトップセールスで展開してきましたが、もはやビジネスとしても成り立たなくなったことが劇的に示されました。

 安倍政権と一体となって、「原発輸出」を進めてきたのが日立です。同社には経済産業省事務次官経験者の望月晴文氏が天下り。「行政分野等における豊富な経験と識見をもとに、独立した立場から執行役等の職務の執行を監督することにより、当社取締役会の機能強化が期待されるため」と日立は理由をあげています。

 13年6月21日に開かれた株主総会の際、原子力事業からの撤退を求めた株主に対し、当時社長だった中西宏明会長(経団連会長)は、「原子力発電の重要性は日本のみならず海外も同様だ。原発をより安全に、確実に運転できるようにして社会貢献することが日立の責務だ」と強調。原発の輸出に対する批判には、「安倍政権の片棒を担ぐものではない。恥ずべきことではなく、むしろ誇るべきだ」と反論し、継続する考えを示していました。

日立の原発建設予定地。奥の建物は2015年に稼働停止したウィルファ原発(FoEジャパンの深草亜悠美さん提供)

 安倍政権は13年の「インフラシステム輸出戦略」で、原発輸出を20年までの10年間で約2兆円へ7倍化することを掲げ推進。日本政策投資銀行や国際協力銀行、日本貿易保険など政府系金融機関を通じた政府あげての支援を計画していました。しかし「官邸主導によるごう慢なやり方」(経済ジャーナリスト)は、「原発政策の失敗のツケを国民に回すな」という世論の高まりの中で頓挫。日立は「凍結」を打ち出さざるを得なくなりました。

 日立の英国での計画が挫折したことで、日本の原発輸出は「全滅状態」に陥りました。東芝は米国での原発建設で巨額の損失を計上し、同社の存亡を揺るがす事態に発展しました。傘下だった米原子力子会社のウェスチングハウスは経営破綻しました。

 原発輸出が破綻する中でも、国内原発再稼働にはあくまで固執しています。中西氏も15日の経団連会長の定例会見で「(再稼働は)どんどんやるべきだと思う」と発言し、「原発ゼロ」の世論を無視し、原発メーカーの利益を優先させています。

 (金子豊弘)

■日立の英原発建設をめぐる動き

 2008年    英政府、原発新設の推進方針を明確化

   11年 3月 東京電力福島第1原発事故

   12年11月 日立製作所、英国の原発事業会社を独電力から買収

   17年 4月 20年代前半の稼働へ英当局に原発建設許可申請

      12月 英当局による原子炉の設計審査を通過

   18年 5月 日立の中西宏明会長が英国のメイ首相と会談

       6月 日立、英政府の支援条件に本格交渉入りで合意

      12月 日本の大手電力などからの出資めど立たず

   19年 1月 日立、原発建設計画の凍結決定

世界の流れに後れをとる・・元経済産業省官僚 古賀茂明さん

 電力会社は総括原価方式によって原発事業で高い利益が保証されます。そのおかげで原発メーカーは高い利幅で非常においしい商売をできるから原発を維持したい。

 しかし日本でも再生可能エネルギーの方が原発より安いという時代が来ます。電力会社は原発維持が困難となり、メーカーも利益の源泉を脅かされます。

 そこで電力会社とメーカーは「重要なベースロード電源である原発の維持は国策だ。だから政府が責任を持って原発維持の環境を整え、もうかるビジネスにすべきだ。法律や予算の整備はもちろん、政府が国民を説得し、輸出相手国政府などとも交渉するべきだ」と2014年から要求し始めました。

 昨年12月に中西会長は、対英原発輸出に関して「もう限界だ」「『もう限界だよ』と英国政府には言ってある」と発言しました。上述の文脈からは、翌1月の英国メイ首相との会談を控えた安倍首相に対して「政府が責任を持って英国と交渉してくれ」という注文をつけたのだと見ることができます。

 また年頭の「お客さま(電力会社)が利益を上げられない商売でベンダー(メーカー)が利益を上げるのは難しい」という発言は「電力会社がもうかる仕組みを作れないなら、俺たちは手を引くからな」という脅しです。「どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだ」「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」という発言は「だから政府が責任を持って国民を説得しろ」ということです。

 15日の「再稼働をどんどんやるべきだ」「原子力に関する議論が不足している」「討論しないといけない」という発言もその流れに沿ったものです。

 10日の安倍・メイ会談では、新たな支援策はなかったようです。日立としては「それなら、もう英国への原発輸出は止めるよ」と政府に対して最後通告を発したのが今回の決定でしょう。

 日立は原発をあきらめたわけではありません。政府が国民を説得し、原発をもうかる事業にするための十分な環境整備をすれば原発を作るし、英国と再交渉して有利な条件を引き出してくれれば輸出に向かいます。

 今回の決定は、安倍政権と利権確保を目指す経産省が原発にこだわるのを見透かして、日立が脅しをかけたと理解すべきでしょう。

 このままでは日本は世界の流れに後れをとるばかりです。政府が決めれば、脱原発はすぐにでもできます。逆に言えば、脱原発を実現する政府を選ぶしかないということです。

(「しんぶん赤旗」2019年1月18日より転載)