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COP24 パリ協定実行段階へ(上)・・「実施ルール」道筋つく 途上国に不満 課題も

 ポーランド南部カトウィツェで2週間にわたって開かれた国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)は、気候変動に取り組むパリ協定の「実施ルール」を採択して12月16日未明閉幕しました。とりあえずパリ協定は2020年からの実施の道筋がついたことになります。しかし気候変動への歴史的責任をめぐる途上国と先進国の対立が深まったほか、会議前に出された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気温上昇が「1・5度」となった場合の影響についての報告書をめぐって紛糾。今後に課題が残りました。

 (COP24取材団)

「目標1.5度」を新基準に

COP会場の階段で訴える若者ら=12月14日、ポーランド・カトウィツェ(岡本あゆ撮影)

 カトウィツェは、産業革命時代から栄えた炭鉱地帯。会議場もかつての炭鉱の跡地に作られ、ロビーのデザインも、天井や壁が黒光りする炭坑内部をイメージしたものです。

 そのロビーで、14日には、市民社会やNGOのメンバーが、「汚染者」ではなく人々の声を聴け、とアクションを起こし、なかなか進まない交渉を批判しました。

 2015年、パリで開かれたCOP21で採択され、1年足らずで発効したパリ協定。今世紀中の気温上昇を2度未満に抑え、さらに1・5度の上昇に抑えることを目指すことを目標にし、世界の約200カ国が協力して温室効果ガスの削減などに取り組む条約です。

「削減目標」のみ

 1997年に制定された「京都議定書」に代わって、2020年から「パリ協定」の下で、各国の取り組みを国際的に点検、推進し、定期的に目標を引き上げていく法的拘束力を持つ仕組みが作られます。そのための「実施ルール」づくりが今回のCOP24の目的の一つでした。

 交渉の結果、途上国と先進国が対立していた、すべての国に共通のルールか、途上国に別のルールを作るかという点は、共通のルールで決着。各国に義務付けられる報告の内容などで柔軟性を持たせることになっています。また、ある国でおこなった排出削減を他国が買う「市場メカニズム」についての決定は先送りされました。「二重計上」防止の仕組みにブラジルが最後まで反対したためです。

 途上国は、ルールの中に、気候変動の影響に対処する「緩和」、先進国からの資金、技術移転、人材育成への支援なども組み込むことを求めました。しかし各国の提出する国別目標は、先進国の主張に沿って、排出削減のみとなりました。

米NGO“評価”

 最後の総会での意見表明では、「『共通だが差異ある責任』の原則をないがしろにする体制が作られようとしているのではないかと懸念する」(エジプト、「77カ国グループ+中国」代表)など、強い不満が噴き出しました。

 これに対し、米国務省は15日、「経済的競争相手に対して、米国と同等の基準で排出の報告を義務付ける点で大きな前進だ。米国は、パリ協定を支えるための負担や資金の約束は負っていないし、気候条約が富の再配分に使われることは許さない」とコメントしました。

 米トランプ政権のパリ協定離脱を批判する米NGOは、今回のルールが「将来の政権によるパリ協定再加入を促進しうる」(懸念する科学者の会のオルデン・マイヤー氏)と評価。

 他方、途上国のNGOの中には、「富裕国の富裕層の利益が優先され、気候変動に責任のある者でなく、世界の貧困層に負担を強いるものだ」(気候変動に反対する市民運動のアントニオ・サンブラーノ氏)と厳しい見方が出ています。

 10月に、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が出した「1・5度報告書」。世界の気温上昇幅を、パリ協定が目標とする2度未満よりもさらに低い1・5度に抑えるために、社会経済の大きな変革を呼びかけました。会議ではこれに応えようという機運が高まりましたが、一部の国が抵抗する動きもありました。

「歓迎」は見送り

 COPの補助機関、SABSTAでの議論中、合意文書に1・5度報告書の内容を「歓迎する」ことを明記しようという提案がなされました。

 ほとんどの国が賛同するなか、アメリカやサウジアラビアなどの4カ国が反対。「内容を承認したわけではない」(米)、「科学者の努力を歓迎するが報告は歓迎できない」(サウジ)などと主張し、1・5度報告書の「歓迎」を盛り込む案は見送られました。

 環境NGO・地球環境市民会議の早川光俊理事は、温暖化対策の加速を各国に強く求めるため、「1・5度報告書に(合意文書内で)もう少し強い位置づけを与えてほしかった」と語ります。

 世界自然保護基金(WWF)ジャパンの小西雅子氏は「米トランプ大統領は、11月に米政府機関が発表した(温暖化を警告する)科学報告さえ、“信じない”としている。米交渉団も、IPCCの科学の報告を歓迎するとは言えなかったのでは」と話します。

米らの態度批判

 一方で小西氏は、米やサウジの態度に多くの国が反発を表明したことを指摘。かえって、各国が1・5度報告書をかなり重視していることが明らかになったと分析します。

 欧州連合(EU)は「われわれは1・5度報告を歓迎する」と表明。イギリスやスイス、ノルウェーなども同調し、「このプロセスが政治化されたことは残念だ」(スイス)、「IPCC総会をホストした国として深く失望する」(韓国)など、米らの態度を批判する声が相次ぎました。

 モルディブは「この報告はすべてを変えた。気温上昇を1・5度に抑える必要があることを明確に示した。われわれにとっての最善の科学的知見を歓迎し、耳を傾ける」と強調。

 小西氏は「1・5度報告書を、各国がこれほど真剣にとらえている。まさに1・5度が、これからの新しいスタンダード(基準)になっていく」と話しました。

(つづく)

(「しんぶん赤旗」2018年12月18日より転載)