COP24inポーランド 実施ルール策定なるか・・2度未満 目標上積みがカギ
【カトウィツェ(ポーランド南部)=伊藤寿庸】12月2日開幕した国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)は、2015年に採択され20年から実施に移されるパリ協定をどのように運用するかの「実施ルール」の策定が最大の目的です。
パリ協定は、地球温暖化防止に世界の大多数の国が協力して取り組むことを約束した画期的な国際条約です。それに「命を吹き込む」のが「実施ルール」です。「パリ協定の『取扱説明書』」と呼ぶNGOの活動家もいます。
今世紀中の気温上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑え、さらに1・5度未満にするよう努力することがパリ協定の目的です。しかし科学者は、すでに現在1度上昇したとしています。近年の洪水や嵐、干ばつなどの極端な気象で被害が拡大しており、事態は急を告げています。しかしこれまで各国が提出した目標では、2度未満の達成は無理です。
そこで、各国の目標をどう高めていくかがカギとなります。昨年太平洋の島国フィジーが議長国となってドイツのボンで開かれたCOP23では、気候変動での被害を含め生の声に耳を傾けることで気候変動対策の重要性を共有する「タラノア対話」を打ち出しました。この「対話」は今回の会議で閣僚級で行われひとまず完結します。同時にパリ協定の下で、5年ごとの目標引き上げのサイクルも始まります。
実施ルールをめぐっては、60項目以上の細目に分かれて交渉がおこなわれています。国別目標にどのような項目を入れるのか、目標を言いっぱなしにさせないために実施状況を国際的に点検するための報告や透明性の問題などが含まれます。
パリ協定では、これまで先進国だけが引き受けていた削減義務に、経済発展で大排出国となった新興国を含め途上国も取り組むことを約束しました。
先進国対途上国 厳しい対立再燃
しかしパリ協定ではかろうじて妥協できた「先進国対途上国」の対立が、「実施ルール」をめぐり再燃しています。
例えば温室効果ガスをほとんど排出していない島国や発展の遅れた小国は、気象災害によってけた外れの被害を受けています。途上国は、現在の被害の主な原因が、200年以上先進国が勝手放題に放出してきたCO2だと考えており、「正義」を実現するには、先進国の財政負担、技術移転が不可欠だと考えています。
具体的には、途上国の排出削減対策、社会や経済が気候変動に対して強くなるようなさまざまな措置を、先進国の負担、技術移転で行うべきだと主張しています。
先進国側は、近年の経済成長で排出量を増大させている新興国を含め、共通のルールを作らないとフェアではないと主張しており、厳しい対立が残されています。
気温上昇がもたらすリスク
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書は、このまま気温が上昇を続けた場合、温度の上昇の度合いによって、社会や環境にさまざまな影響が生じるリスクの可能性を指摘しています。
A:暑熱や洪水など異常気象による被害が増加
B:サンゴ礁や北極の海氷などのシステムに高いリスク
マラリアなど熱帯の感染症の拡大
C:作物の生産高が地域的に減少する
D:利用可能な水が減少する
E:広い範囲で生物多様性の損失が起きる
F:大規模に氷床が消失し海面水位が上昇
G:多くの種の絶滅のリスク、世界の食糧生産が危険にさらされるリスク
※1986年~2005年の世界の平均気温を基準とする。影響は、気温変化の速度や今後の対策の内容により異なる。(2014年に公表された、IPCC第5次評価報告書のうち第2作業部会報告書の政策決定者向け要約を基に作成)=WWFジャパンの資料から
※IPCCは今年10月に「1.5度特別報告書」を発表し、現在の気温は産業革命前と比べて、すでに約1度上昇したと指摘。
■温室効果ガス削減の主要国の国別目標
EU 2030年に少なくとも40%削減(1990年比)
アメリカ 2025年に26~28%削減(05年比)。28%削減に向けて最大限取り組む
日本 2030年度に26%削減(13年度比)
中国 2030年までに国内総生産(GDP)当たり60~65%削減(05年比)。30年前後に排出量のピーク
ブラジル 2025年までに37%削減(05年比)。30年までに43%削減(同)
インド 2030年までにGDP当たり33~35%削減(05年比)
(「しんぶん赤旗」2018年12月9日より転載)
COP24inポーランド 多くの人が解決策提案。希望感じる・・呉冠卓さん(16)/汚水垂れ流し工場訴え勝利した中国の高校生
中国・瀋陽の高校2年生の呉冠卓さん(16)=は、「中国気候行動ネットワーク」(CYCAN)のメンバーとして、COPに初めて参加しました。地元では環境保護の「ヒーロー」です。
魚の大量死やアオコの大発生が相次いでいた瀋陽で2015年、汚染を垂れ流していた工場を裁判に訴え、勝利しました。
「アオコの発生地点からみて、怪しい排水口はすぐにわかりました。直径は私の身長よりも大きかった」と呉さん。「番犬や大きなナイフを持った警備員がいたけど、夜に川まで下りて排水を採取しました。まだ若くて、怖いもの知らずだった」
大学の研究室に分析を依頼して、確かな証拠をつかみ、弁護士の協力を得て裁判に持ち込みました。
「裁判官は私たちの味方をしてくれた。大きな勝利でした」
政府の検査もすり抜けていた工場の悪事を暴いたと、市民からは感謝され、最近は川に魚や鳥など豊かな生態系が戻ってきているといいます。
「森の中で育って、動物が大好きです。だから魚が死んだのが許せなかった」。将来は、環境科学や環境政策を専攻したいと考えています。
「環境問題は深刻すぎて希望がないと感じていたけど、COPに来て多くの人が解決策を提案していることが分かり、希望を感じました」と話していました。
(カトウィツェ=伊藤寿庸)
(「しんぶん赤旗」2018年12月9日より転載)