北海道地震(9月6日)から3週間。引き起こされた全域停電(ブラックアウト)は、揺れの被害は大きくなかった道南の温泉地の観光にも重大な被害をもたらしました。登別市も、主要産業がいまも影響を受けています。(高橋拓丸)
あちこちから蒸気や熱水が噴き上がる登別温泉「地獄谷」。全道で屈指の観光名所ですが、訪れる人の姿は平日も連休中も、震災前と比べてまばらです。
「電気も電車も止まり、街全体が真っ暗でどうすればいいのか分からなかった」と震災直後の状況を振り返るのは、黄緑色の法被を着た「地獄谷」の観光ボランティアガイドの女性(72)です。
「晴天に恵まれた3連休の中日も、お客さまは、よくて地震前の5割。平日はさらにその半分くらいかな。最近は蒸気や湯の出がいいので、ぜひ見に来てほしいのですが、危険だと思われる空気があるようです」とため息をつきました。
登別コンベンション協会によると、震災以降、約5万件の宿泊キャンセル(25日現在)があったといいます。
大野薫専務理事は「9~10月は紅葉で本来なら繁忙期で、昨年の9月は10万3000人の宿泊予約がありました。登別の観光客の4割に当たるインバウンド(訪日外国人旅行者)の減少も深刻です」と、平時通り元気に営業していることを国内外に強くアピールしていくと語ります。
震災時、停電で交通の大半がストップし、外国人を含め、数千人規模の観光客が“帰宅難民”となりました。
水をくみ上げるモーターを動かせず、温泉も水道も使えない…。それでも、自家発電で最低限の非常灯をつけ、商店や宿泊施設は食事と避難スペースを提供しました。
温泉旅館「石水亭」の猪股貴美恵支配人は「物資が届かず、インフラも止まったので、備蓄でなんとかしのぎました。季節が冬でなくて助かりました」と話します。
高橋はるみ知事が、停止した苫東厚真発電所の耐震強度が震度5相当しかなかったことを“知らなかった”と無責任極まりない答弁をした問題に、怒りが広がっています。
「停電の次は節電で、夕方のきらびやかさも大事な観光地は大迷惑を受けています」と話すのは、登別温泉の商店で働く女性(57)。温泉街の店舗は多くが薄暗く、ショーウインドーには「節電中 ご迷惑おかけします」の貼り紙があちこちに。
女性は「登別では建物が壊れたりといった被害はほぼなく、実害は停電だけ。北海道全部が停電するなんて考えられなかった。知事は『知らなかったので仕方ない』じゃ済まされない」と憤ります。
登別グランドホテルで働く平田江美子さん(68)は「停電時はテレビも見られず情報がまったく入ってこなかったので、登別だけが停電になっているんだと思っていました」といいます。「まさか全道が停電になるなんて想像もしていませんでした。いまも多くの宿泊施設が、営業を縮小して従業員を交代で休ませています。街が受けた被害はとても大きい」と北電と道に矛先を向けます。
ブラックアウトは、泊原発の再稼働を前提に1カ所に電力供給源を集中してしまった「人災」だと指摘するのは、室蘭工業大学の宮尾正大名誉教授(79)です。高橋知事答弁について「道の電力に対する体制が北電に任せきりで、人員もまともに配置していなかったのではないか。地震が冬なら、避難も通信もできない状況に陥り、暖房も使えず大変な人的被害が出ていました。責任は非常に大きい」と語っています。
(「しんぶん赤旗」2018年9月28日より転載)